/ブラウンシュヴァイク侯は、フント男爵のドイツ人大移民団を米国独立弾圧の傭兵軍に変え、ロスチャイルド家を通じてその利益を仏大オリエント社のエジプト十字軍に投資。しかし、その大統領オルレアン平等公は武装市民革命を企て、マインツ独立の失敗、ロベスピエールの独裁、ナポレオンのクーデタと、メイソンリーは迷走していく。/
「でも、大陸メイソンは、ウィレルモに従う、ということ?」
「いや、リヨン市の「エリュ・コーエン(選良司祭団)」でも、「聖地善行騎士団(シュヴァリエ・ベネフィシアン・デュラ・シテサンテ)」を騙(かた)って支配するウィレルモに対する反発が生じ、八三年、「レザミレユニ(再結の友)」の王室財宝官ランジェ侯シャルルピエールポールが、パリ市で、聖地善行騎士団とは別の上位組織「フィラレート」を創設する」
「フィラレートって?」
「古代ギリシアの人名だな。真実を愛する者、という意味だ」
「ようするに、「厳格(ストリクト)新聖堂騎士団(テンプラー)」の啓蒙主義ボーテ派のフランス支部だよ」
「ただ、八四年にはバイエルン王国がイルミナティはもちろんメイソンを丸ごと禁止してしまった。八五年には教皇ピウス六世もイルミナティを異端として禁止」
首飾り事件:エジプト十字軍の計略
「その間に、フランスでは、例の首飾り事件が起きるだろ」
「ああ、そうだ。それもおそらくイルミナティ絡みだろうな。「フィラレート」の事務局が王室財宝官ランジェ侯なんだから」
「首飾り事件って、ロアン枢機卿がラモット伯爵夫妻とカリオストロ伯爵夫妻にそそのかされて、王妃マリーアントワネットへの贈り物として首飾りを買ったけれど、宝石商に代金も支払われなかったし、王妃にも首飾りは届けらなかった、っていう話ですよね」
「表向きは、ラモット伯爵夫人の単独犯行ということで、マリーアントワネットは、詐欺師たちにかってに名前を使われた、と言っているが、どこまで本当だか」
「マリーアントワネットだからなぁ」
「というと?」
「母親のマリアテレジアが心配して、オーストリアからなんども手紙で諫(いさ)めなければならないほど、彼女の贅沢(ぜいたく)ぶりはヨーロッパ中で有名だった。だけど、米国独立戦争の支援もあって、そんなカネがフランス王室に残っていたわけがないんだ。だから、むしろ王妃は、衣装だの、舞(ぶ)踏(とう)会だの、諸所からの請求に困って、かってにブルボン家の王室財宝の一部を支払いに当ててしまっていたんじゃないだろうか。それで、王室財宝官のランジェ侯は、その買い戻しに奔走していた」
「マリーアントワネット王妃は、なんとかする気は無かったんですかね」
「彼女なりの考えはあったよ。貴族は私一人で十分。ほかの都市貴族に重税をかければいい、って」
「いい案じゃないですか」
「その程度で、どうにかなる状況じゃなかっただろ。中世の十字軍時代と同じだよ。いや、それよりもっと悪い。農業生産に比して人口過剰の上に、産業革命で生産過剰だ。街にはすでに失業者があふれかえっていた。こんな状況で課税まで強化したら、市中経済は死んでしまうぞ」
歴史
2020.09.30
2020.10.30
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2021.01.12
2021.03.22
2021.05.25
2021.08.20
2021.08.20
2021.09.09
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。