/ブラウンシュヴァイク侯は、フント男爵のドイツ人大移民団を米国独立弾圧の傭兵軍に変え、ロスチャイルド家を通じてその利益を仏大オリエント社のエジプト十字軍に投資。しかし、その大統領オルレアン平等公は武装市民革命を企て、マインツ独立の失敗、ロベスピエールの独裁、ナポレオンのクーデタと、メイソンリーは迷走していく。/
「プロ市民?」
「売春婦や犯罪者の中で口が立つ連中を引き寄せて、扇動家や連絡係に使っていたんだよ。連中は、もとより反体制的だし、カネさえもらえば、なんでもやるやつらさ」
「そんなの、屋敷の中に入れていたんですか?」
「ほら、ここにも、あちこちに噴水があるだろ。あれが重要なんだ。オルレアン「平等(エガリテ)」公が使った通信手段だ」
「通信?」
「噴水は、屋敷の中から操作できるんだよ。あれでプロ市民たちに指示を出す。やつらは、噴水がどんな状態だったかだけを、地方の同志の都市貴族に伝える」
「会ってもいない、文章も無い、証拠も残らない、途中で連絡係が捕まっても、だれにも意味がわからない、というわけだな」
「ああいう噴水を都市貴族の屋敷前に作らせて、地方の末端の連中まで操作した。噴水暗号は、各階層ごとに組み合わされていたから、下位の連中は上位の連中の暗号がわからない」
「メイソンの暗号儀式の応用ですね」
「で、八九年の七月か」
「もうすこし順を追っていこうよ」
「なら、まず前年の八八年八月末に財務総監ブリエンヌが都市貴族への課税に失敗して辞任したところからですよね」
「そうだな」
「それで、ネッケルの再任となったけれど、そのときに三部会の招集と承認をルイ十六世に条件付けた」
「このあたりまで、王室財宝官ランジェ侯爵の思惑どおりだな」
「それで、問題の八九年五月にヴェルサイユ宮殿内で三部会(エタ・ジェネロ)が開かれた。だけど、地方議会同様に第三身分を倍にしろ、いや伝統的に中央は三身分同数だ、って、運営の仕方で紛糾してしまった。それが昂(こう)じて、六月二〇日の球技場(テニスコート)の誓い、第三身分は絶対に憲法を制定するぞ、ということになった」
「大ブリテン型の立憲君主制が予定のおとしどころだったからね」
「ところが、業を煮やした王妃マリーアントワネットが、ほら、やっぱりネッケルなんかじゃダメじゃないの、って、七月十一日、ルイ十六世にネッケルを解任させてしまった」
「これは予想外だっただろうなぁ」
「それで、今度は、ほらやっぱりルイ十六世なんかじゃダメだろ、って、オルレアン「平等(エガリテ)」公がみずからクーデタに動き出した」
「このあたりから、どんどんランジェ侯爵の軌道を外れて、コントロールできなくなっていったんだろう」
「「フランス大オリエント社(GOdF)」のランジェ侯爵がめざしていたのは、あくまでルイ十六世下での立憲君主制で、オルレアン「平等(エガリテ)」公には、せいぜい首相になってもらうくらいのつもりだったんだろうな」
歴史
2020.09.30
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2021.05.25
2021.08.20
2021.08.20
2021.09.09
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。