/ブラウンシュヴァイク侯は、フント男爵のドイツ人大移民団を米国独立弾圧の傭兵軍に変え、ロスチャイルド家を通じてその利益を仏大オリエント社のエジプト十字軍に投資。しかし、その大統領オルレアン平等公は武装市民革命を企て、マインツ独立の失敗、ロベスピエールの独裁、ナポレオンのクーデタと、メイソンリーは迷走していく。/
「九四年のロベルピエールの「最高存在」よりは洗練されてますね」
「でも、それ、独裁者の正統性の話でもあるぜ」
「南西ドイツのチュービンゲン大学で学生時代に革命に熱狂していたヘーゲルは、その後、革命の現実に失望し、スイス・ベルン市の貴族の家庭教師。九七年に二七歳でフランクフルト市のワイン商家の家庭教師」
「すっかり丸くなっちゃってますね。大物のゲーテは?」
「九六年に『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』を書いただけ」
「それだけ? ベートーヴェンは?」
「時代に不満な、ただの傲慢なピアニスト。ソナタやコンチェルトを書いていたが、難聴の兆候は顕著になりつつあった」
「なんだか、みんな現実逃避的ですね……」
霧月のクーデタ
「ところが、彼らと関係して、また新たに面倒な女が出てくる。スタール男爵夫人。三部会(エタ・ジェネロー)当時の財務長官ネッケルの娘で、八六年、二〇歳でスウェーデン外交官スタール男爵と結婚したものの、すぐに別居。以後、文芸や政治の評論で活躍し、ゲーテらに大いに気に入られた。そして、ロマン主義の小説家、コンスタンと同棲して、四人の子供も生まれている。ところが、ナポレオンが頭角を現してくると、猛烈にアタックをして、風呂場まで押しかける始末。しかし、ナポレオンは、ジョセフィーヌにゾッコンで、スタール男爵夫人には目もくれない。こうなると、今度は愛人のコンスタンとともに、激烈なナポレオン批判を始め、ヨーロッパ中の広い人脈を駆使して、旧イルミナティの連中を反ナポレオンに扇動しようとする」
「ナポレオンも、ずいぶんやっかいな女に関わっちゃったなぁ」
「いや、関わらなかったから、逆恨みされたんだよ」
「ようするに、その人、ストーカーじゃないですか?」
「だけど、父親はとてつもない金持ちだし、本人はイルミナティの人脈に気に入られているし、敵に回すと、まさに面倒だったろうな」
「一方のナポレオン。この女のせいなのか、パリ市を離れて、九八年七月には、念願のエジプト遠征。ところが、この行きがけにマルタ島を襲撃して掠奪。修道騎士団員の大半はロシアに亡命せざるをえなかった」
「あれ? 救院騎士団(シュピタラー)は、むしろ教皇やイエズス会と対立してエキュメニズム(世界教会主義)を計画し、イルミナティや「フランス大オリエント社(GOdF)」を創設して、フランス大革命を引き起こした本体なんじゃないのか?」
「彼らの支援でできた革命政府は、八九年十二月、カトリック教会の資産を抵当にしたアシニャ(割当)紙幣を発行した際に、救院騎士団(シュピタラー)の資産もいっしょにガメちゃったんだよ。それに文句を言っていたら、こんな風に本拠地まで攻め込まれた」
歴史
2020.09.30
2020.10.30
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2021.01.12
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2021.08.20
2021.08.20
2021.09.09
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。