/ブラウンシュヴァイク侯は、フント男爵のドイツ人大移民団を米国独立弾圧の傭兵軍に変え、ロスチャイルド家を通じてその利益を仏大オリエント社のエジプト十字軍に投資。しかし、その大統領オルレアン平等公は武装市民革命を企て、マインツ独立の失敗、ロベスピエールの独裁、ナポレオンのクーデタと、メイソンリーは迷走していく。/
百科全書ロッジ・ヌフスール:ヴォルテール
「フランスって、ルイ十五世ですか?」
「いや、彼は七四年に天然痘で亡くなってしまっていた。大ブリテンは、七年戦争以来、天然痘患者が使って汚染した毛布などを新大陸の原住民に贈って、連中を殲(せん)滅(めつ)しようとしていたんだ。その流行が、新大陸中西部フランス領からヴェルサイユ宮殿にまで流れ込んだんだ」
「生物兵器かよ。ひどいことをするなぁ」
「でも、大ブリテンとしては、独立戦争直前に神聖ローマ皇帝になるかもしれないフランス王が亡くなるなんて、思った以上に成功した作戦ということになるんでしょうねぇ……」
「それで、後を継いだのが、例のボンクラか」
「ああ、ルイ十六世。七〇年に十六歳でマリーアントワネットと結婚させられ、七四年に二〇歳で即位。七六年当時でまだ二二歳だからね」
「そんなのにフランクリンを紹介しても、意味が無いでしょ」
「じゃあ、メイソンか」
「そう。五〇年代のドルバック男爵の百科全書サロンを引き継いだ「ヌフスール(九美女神)」。ここでフランクリンは、ヴォルテールらと親好を深めた」
「ドルバック男爵のサロンは、ロワイヤル通り八番地で、あまりに町中すぎましたよね。「ヌフスール(九美女神)」は、パリ市のどこにあったんですか? よくばれなかったですね」
「それは、じつは哲学者で徴税請負人だったエルヴェティウスのサロンだ。オートウィユ通り五九番地。本人はすでに七一年に亡くなってしまっていたが、その友人知人が未亡人のところに集まってきてできた」
「なんだ、こないだ行ったジュリアの家の近くかよ。あんなパリ市のはずれのところじゃ、そりゃ見つからないはずだ」
「でも、今じゃ、目の前がフランス国立科学研究センターだよ」
「百科全書啓蒙主義にふさわしい」
「「ヌフスール(九美女神)」って、九人姉妹っていう意味ですよね」
「ただの姉妹じゃないよ。九人姉妹と言ったら、ヘシオドスに出てくるギリシア神話のムネモシュネ(記憶女神)の娘たち、九柱のミューズ(美女神)のこと」
「あ、それなら知ってます。記憶から生まれた弁論、歴史、叙情、喜劇、悲劇、舞踊、歌唱、讃辞、予言、でしたっけ」
「そう言えば、プルーストの生家もそばだな」
「記憶の娘たちの近くで『失われた時を求めて』というのも、ずいぶん皮肉ですね」
「もっとも、ブラウンシュヴァイク侯やカッセル方(ラント)伯も、ばかじゃない。パリ市の啓蒙主義サロンの「ヌフスール(九美女神)」と違って、リヨン市の「エリュ・コーエン(選良司祭団)」や「レザミレユニ(再結の友)」は、もともとオカルト色が強い。もとより「エリュ・コーエン(選良司祭団)」の創始者のドパスカリは七四年に亡くなっていたところで、錬金術師のウィレルモに組織を乗っ取らせ、七八年には、上位に「聖地善行騎士団(シュヴァリエ・ベネフィシアン・デュラ・シテサンテ)(CBCS)」を創ってしまった」
歴史
2020.09.30
2020.10.30
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2021.01.12
2021.03.22
2021.05.25
2021.08.20
2021.08.20
2021.09.09
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。