/ブラウンシュヴァイク侯は、フント男爵のドイツ人大移民団を米国独立弾圧の傭兵軍に変え、ロスチャイルド家を通じてその利益を仏大オリエント社のエジプト十字軍に投資。しかし、その大統領オルレアン平等公は武装市民革命を企て、マインツ独立の失敗、ロベスピエールの独裁、ナポレオンのクーデタと、メイソンリーは迷走していく。/
「大ブリテンの女王アンを造幣局長官の錬金術師ニュートンが支えたように、八方の戦闘に駆け回るナポレオンを支えたのが、外務大臣のタレーランと内務大臣で財宝官のシャプタル」
「タレーランは、司教のくせに、教会資産を没収してアシニャ(割当)紙幣を発行した人ですよね」
「そもそもナポレオンのクーデタを画策したのも彼だからね」
「すごい策士だな」
「その才能を買って、こんどは外務大臣か」
ミュージアム建設の宝くじ
「シャプタルは?」
「もともと南仏の薬剤師の息子で、モンペリエ大学の化学教授」
「もろに錬金術師だな」
「このころは、すでに産業革命の時代だ。彼は叔父の莫大な遺産で硝酸やアルミなどの化学工場を創設している。そして、大革命の前年には、三〇歳で国王の聖ミカエル騎士団に抜擢されている」
「だったら、王党派じゃないのか?」
「かもな。国王処刑の九三年に『モンターニュ(急進上座)派とジロンド(ボルドー)派の対話』なんて書いて、逮捕された。それで、その後は政治から手を引いて、パリ美術工芸学校の創設したり、ワインの加糖発酵を発明したり」
「なんでもやるんですね」
「彼の中では、化学も、芸術も、農業も、ひとつのものだったんだろうな」
「まさに錬金術というところじゃないか」
「その彼が、ランジェ侯爵の後を継ぐ財宝官として経済再建でやったのが、ミュージアム(博物館)」
「ミューズの館、シャプタルは、まちがいなく「ヌフスール(九美女神)」のメンバーでもあったんだろうな。考えてみれば、ミュージアム(博物館)って、たいてい新古典主義の建物だ」
「ようするに、新時代のメイソンロッジそのものだよ」
「あれ? 私、学芸員だから、メイソンロッジの事務係ということですか?」
「時代が時代ならね」
「でも、ミュージアム(博物館)なんかで経済再建ができるんですかねぇ。どこでもガラガラで、人なんかあんまり来ませんよ」
「メイソンロッジなんだから、それくらい目立たない方が好都合なんだ。重要なのは、巨大な箱物を作ることさ。一七五九年に大英ミュージアム(博物館)を建てるとき、宝くじで莫大な建設資金の調達をしたんだよ」
「シャプタルも、同じ手を使った?」
「教会を潰したら、大量の土地が出てきただろ。同様に、王族を潰したら、莫大な美術品が出てきたんだ。これらをルーヴル宮だけでは収容しきれず、リヨン市、マルセイユ市、ボルドー市、ジュネーヴ市、ナント市、リル市、ブリュッセル市、ストラスブール市、ナンシー市、ディジョン市、トゥールーズ市、カーン市、ルーアン市、レンヌ市、さらには、新領土のライン左岸のマインツ市にミュージアム(博物館)を造らせた」
歴史
2020.09.30
2020.10.30
2020.11.18
2021.01.12
2021.03.22
2021.05.25
2021.08.20
2021.08.20
2021.09.09
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。