「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ」の終焉  ― 支配型マネジメントの終焉と“静かな退職”の増加 ― 共鳴型リーダーシップ1話

2025.08.12

組織・人材

「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ」の終焉  ― 支配型マネジメントの終焉と“静かな退職”の増加 ― 共鳴型リーダーシップ1話

齋藤 秀樹
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事

これまでの執筆もまとめつつ、「共鳴型リーダー」という新たなリーダー像を念頭にその軸となる土台を5話にまとめました。 1話は支配型マネジメントからの脱却がテーマです。 「強い管理職」の時代背景とその終焉 「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ。」 かつて多くの職場で聞かれたこの言葉は、ある種の“美学”として通用していた。高度経済成長期を支えたのは、上からの指示を的確に遂行する従順な社員たちと、強いリーダーシップで指揮を執る管理職だった。

第1話 強さでは導けない時代へ

― 支配型マネジメントの終焉と“静かな退職”の増加 ―


はじめに 「強い管理職」の時代背景とその終焉

「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ。」

かつて多くの職場で聞かれたこの言葉は、ある種の“美学”として通用していた。高度経済成長期を支えたのは、上からの指示を的確に遂行する従順な社員たちと、強いリーダーシップで指揮を執る管理職だった。

だが今、こうした「強さ=正しさ」という価値観は、時代とともに音を立てて崩れ始めている。

とある中堅企業の部長が嘆いていた。

「昔は“うるさい上司”でも、部下はついてきた。でも今は、何も言わなくなって、気づいたら辞めてる。何が悪かったのかもわからない。」

これは決して一社だけの話ではない。今、日本のあらゆる職場で起きている“静かな異変”の兆候だ。


「静かな退職(Quiet Quitting)」の現状とデータ

2022年、Gallup社が世界142カ国で行った調査によると、日本における従業員のエンゲージメント(仕事への熱意と没頭度)はわずか5%。これは世界最低レベルであり、先進国の平均を大きく下回っている。

さらに注目すべきは、“Quiet Quitting(静かな退職)”という現象の広がりだ。

これは、形式的には会社に在籍し続けながら、最低限の仕事だけをこなす、いわば「実質的な退職状態」を意味する。表面上は波風が立たないため、管理職が気づいた時には、すでにその社員の心は離れている。

Gallupの別調査では、日本の「やる気のない社員」の割合は69%にのぼるとされている。彼らは辞めてはいないが、明らかに“そこにいない”。

この現象は、明確な対立や抗議よりも恐ろしい。「何も起こっていない」ように見えるからだ。だがその静けさは、組織の内側から静かに崩壊が進んでいることを示している。


上司の“徳”の欠如が生む、無言の離脱現象

なぜ、社員は声をあげずに心を閉ざすのか。

答えは単純だ。「この人には言っても無駄だ」と思われているからである。

かつての「強さ」は、指導力の象徴だったかもしれない。しかし今、部下に必要なのは、“徳”を持った上司である。

ここでいう「徳」とは、肩書きや成果ではない。人間性そのものに宿る信頼と尊敬の力である。

徳があるリーダーには、部下が自然と心を開く。「叱られても、あなたの言葉なら受け止めたい」と思わせる何かがある。一方で、徳のないリーダーは、正論を語っても響かない。

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齋藤 秀樹

株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事

富士通、SIベンダー等において人事・人材開発部門の担当および人材開発部門責任者、事業会社の経営企画部門、KPMGコンサルティングの人事コンサルタントを経て、人材/組織開発コンサルタント。

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