2025.08.12
「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ」の終焉 ― 支配型マネジメントの終焉と“静かな退職”の増加 ― 共鳴型リーダーシップ1話
齋藤 秀樹
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
これまでの執筆もまとめつつ、「共鳴型リーダー」という新たなリーダー像を念頭にその軸となる土台を5話にまとめました。 1話は支配型マネジメントからの脱却がテーマです。 「強い管理職」の時代背景とその終焉 「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ。」 かつて多くの職場で聞かれたこの言葉は、ある種の“美学”として通用していた。高度経済成長期を支えたのは、上からの指示を的確に遂行する従順な社員たちと、強いリーダーシップで指揮を執る管理職だった。
■「無関心」という“負の空気”の蔓延を防ぐには?
ステルス退職の最大のリスクは、「放っておいても仕事は進む」という“錯覚”だ。
たとえば、部下が
- 報連相を最低限しかしなくなった
- 目の輝きが消えてきた
- 自主的な提案や発言が減った
- 成果には問題がないが、関心のなさが見える
といった兆候があれば、すでに“心の退職”が始まっている可能性がある。
これを防ぐには、次のような取り組みが有効である。
【実践アドバイス】「心の不在」に気づく3つのチェック
- “声”より“沈黙”に敏感になる
発言が減ったときほど、内面に注目すべきタイミング。 - “感情”より“無感情”に注意する
怒りよりも「どうでもいい」と感じさせている状態が最も危険。 - “業績”より“姿勢”を見る
数字が出ていても、目線が下を向いているなら、真のエンゲージメントはない。
■“徳”のあるマネジメントとは何か?
これまでのような「成果で評価される上司」ではなく、これからは「徳で信頼される上司」が求められる。
徳とは、人格の総和であり、“見えない信用力”である。
次回以降で詳しく扱うが、徳のある上司には、以下のような資質が見られる:
- 誠実さ: 嘘をつかない、逃げない
- 謙虚さ: 自分を過信せず、耳を傾ける
- 共感力: 相手の視点に立てる
- 利他性: 部下の成功を自分事にする
- 覚悟: 目の前の部下と“本気で向き合う”姿勢
徳のある上司には、“背中からにじむ信頼感”がある。それは指示では伝わらない。在り方で伝わるものだ。
■未来へ:「支配」から「共創」へ
いま、働く人々の内面に、大きな問いが生まれている。
「私は、なぜこの会社にいるのか?」
「誰のために、何のために働いているのか?」
この問いに対して、上司が「ただ結果を出せ」と迫るのか、「一緒に未来を考えよう」と語るのか。その違いが、“静かな退職”を加速させるか、防ぐかの分かれ目になる。
令和の組織は、支配では動かない。
必要なのは、共創の関係性を築けるリーダーの存在である。そして、そのリーダー像は、かつての“強さ”とは真逆のものかもしれない。
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2009.02.10
2015.01.26
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
富士通、SIベンダー等において人事・人材開発部門の担当および人材開発部門責任者、事業会社の経営企画部門、KPMGコンサルティングの人事コンサルタントを経て、人材/組織開発コンサルタント。
