「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ」の終焉  ― 支配型マネジメントの終焉と“静かな退職”の増加 ― 共鳴型リーダーシップ1話

2025.08.12

組織・人材

「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ」の終焉  ― 支配型マネジメントの終焉と“静かな退職”の増加 ― 共鳴型リーダーシップ1話

齋藤 秀樹
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事

これまでの執筆もまとめつつ、「共鳴型リーダー」という新たなリーダー像を念頭にその軸となる土台を5話にまとめました。 1話は支配型マネジメントからの脱却がテーマです。 「強い管理職」の時代背景とその終焉 「背中を見て学べ。文句を言わずにやれ。」 かつて多くの職場で聞かれたこの言葉は、ある種の“美学”として通用していた。高度経済成長期を支えたのは、上からの指示を的確に遂行する従順な社員たちと、強いリーダーシップで指揮を執る管理職だった。

静かな退職とは、「見切られた上司」のもとで起きる無言のサインである。


ステルス退職の空気が蔓延する職場の特徴

こうした無関心と静かな離脱が蔓延する職場には、ある共通点がある。

  1. 目的の共有がされていない(Whyが見えない)
    → 指示や業務はあるが、「なぜそれをやるのか」の語りがない。
  2. 心理的安全性が低い(発言・挑戦のリスクが高い)
    → ミスが責められ、発言が軽視される。
  3. 上司と部下の関係が“契約”でしかない
    → 人間的な信頼や絆が存在しない。
  4. リーダー自身が“疲れている”
    → 本音では、「もう部下のことまで構えない」と感じている。

これらの空気が積もり、社員の内側に「どうでもいい」という感情が生まれる。声を上げず、何も言わず、ただ指示された最低限のことだけをこなす“ステルス状態”へと移行していく。


「契約」ではなく「信義」でつながる組織へ

ビジネスは契約社会だ。だが、契約だけでは、人は心を動かされない。

組織を本当に動かすのは、「この人となら、一緒にやりたい」と思わせる信義と信頼の関係だ。給料や役職ではなく、“あなたがいるから”という情緒的な動機こそが、人の行動を変える。

徳を持った上司は、「部下の存在」を信じ、「可能性」を信じ、「未来」を語る。そこに信義が生まれ、部下もまた応えようとする。

信頼は契約では買えない。だが、誠実さを重ねることで確実に育まれる。

*「信義」とは相手との信頼関係を守り抜こうとする誠実な意志と、その関係に対する責任感


見えない無関心と無力感の正体

では、なぜ今これほどまでに多くの社員が「心を閉ざす」のか。

それは、“感じないことが楽”になってしまっているからだ。

無関心とは、自分を守る防衛反応でもある。信じたことが裏切られ、頑張っても報われず、発言しても変わらない。そうした経験が重なると、人は「感情を使わない」という選択をする。

その結果が、「静かに辞める」という選択肢なのだ。

本当に怖いのは、怒りでも反抗でもない。関心の放棄、すなわち“魂の退職”である。


終わりに 「支配」から「共創」への時代転換

今、私たちは問い直されている。

「上に立つ人間の価値とは何か?」

「人を動かすものは、何なのか?」

時代はすでに、「強い管理職」から「共に考え、育むリーダー」へと大きくシフトしている。

支配では、人は動かない。ましてや、感情や創造性は引き出せない。これからの組織に必要なのは、「共創」である。つまり、上下関係を超えて「一緒に未来をつくる」姿勢だ。

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齋藤 秀樹

株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事

富士通、SIベンダー等において人事・人材開発部門の担当および人材開発部門責任者、事業会社の経営企画部門、KPMGコンサルティングの人事コンサルタントを経て、人材/組織開発コンサルタント。

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