キリスト教からイスラム教へ

／私が東大にいたころ、イスラム学科ができたばかりで、学生は一人だけ。教授と一対一では気まずい、というので、彼につきあって私と友人の三人で受講したが、当時はまだ、イスラムなど、共産圏よりも遠い話。それが、いまでは生の情報も増え、あのころ習ったのとはずいぶん違うほんとうの姿が見えるようになってきた。／

10.01.03．ローマ教会の支配

ゲルマン人を抑え込んだローマ教皇レオ一世は、西ローマ内での世俗的な主導権を確立しただけでなく、さらに、イエスの筆頭使徒ペテロこそ初代ローマ教皇であり、歴代の教皇はその地位を継承している、として、全キリスト教世界におけるローマ教皇の絶対優位を主張しました。

これが重要なのは、ペテロの地位とは、イエスからペテロに与えられたとされる天国の鍵の権限、のことだからです。これは、つまり、ペテロ、および、ペテロの地位を継承するローマ教皇だけが、いわば神の代理として、この世の善悪を決めることができる、ということを意味します。

Ｊ え？ 知恵の実を食べて、全知全能でもない人間が善悪を判断しようとするようになったことが原罪なのに、ローマ教皇は、それやっていいわけですか？

いいんです。それも、イエスのお墨付きだから、無謬、絶対にまちがいがありえない。逆に、教皇に反対する者は、神に逆らうも同然。そう言って、あちこちの教会に高飛車な命令を出しまくった。

Ｊ そんな話、みんな従ったんですか？

そんなわけがない。聞いたのは、せいぜい教皇レオ一世に信服していた西ローマの教会だけですよ。でも、当時、西ローマなんて、すでにローマ帝国が見捨てた過去の地域で、教会も、コンスタンティノープル総主教の方が格が上。おまけに、レオ一世の後、480年には東ローマから送り込まれていた西ローマ皇帝も暗殺されて断絶し、ゲルマン人の国々、東を中心とするローマ帝国の異民族の属州に成り下がってしまいます。

Ｊ ゲルマン人が、おとなしく東ローマ帝国に服従した？

これも、そんなわけがない。ゲルマン人のイタリア王オドアケル（位476～93）やテオドリック（位493～526）、フランス王クローヴィス（位481～511）などは、東ローマ帝国に地位を認められていたものの、東の帝国とはつねに緊張関係にあった。このために、ローマ教会も、内部でゲルマン派とローマ帝国派に分かれ、それぞれに教皇を立てて争っていました。

Ｊ また教会の内輪揉めですか。