キリスト教からイスラム教へ

Ｊ つまり、ムスリムのアラブ人が、広大な領土で原住民を遊牧するようなしくみを作り上げたんですね。

しかし、ウマルも44年に暗殺され、ムハンマドの娘婿のウスマーン（c574～位644～56）が第三代カリフに選ばれます。彼は、クライシュ族メッカ市の大商人ウマイヤ家に属していながら、最初期からのムスリムでした。そして、詠唱すべきもの、『クルアーン』としてムハンマドの預言を正典化し、信仰の統一を図ります。

彼はまた、巨大国家となって膨れ上がるイスラム帝国の資金管理や法制整備、事務作業のために、有能なウマイヤ家一族の者を多く登用しました。しかし、このころ、周辺に征服の余地もなくなり、軍人たちは、略奪のうまみも無いまま、ただムスリムの生活規則に縛られ、異郷の軍都での駐留を強いられてており、中央でクライシュ族ウマイア家が帝国を乗っ取ろうとしていると非難し始めます。

Ｊ あー、いつの時代も、どこの国でも、草創期の体育会系軍人と、大成期の文化部系官僚って、揉めるんですよね。

654年、エジプトの軍人たちが首都メディナ市に押しかけ、ウスマーンを惨殺。それで、ムハンマドの従弟で、ムハンマドのもうひとりの娘婿アリー（c600～位54～61）が第四代カリフに選ばれます。しかし、初代カリフのアブー・バクルの娘でムハンマドの晩年の妻アーイシャはこれに反対し、シリア総督のクライシュ族ウマイヤ家のムアーウィヤ（c603～位60～80）が、660年、みずからカリフを名乗り、首都をメディナ市から領土の中心、シリアのダマスカス市に遷しました。

Ｊ アリーはどうなったんですか？

アリーが軟弱で、地方軍人たちを掌握できないから、こんなことになった、と非難する離反派、「ハワーリジュ派」に殺されてしまいました。でも、ムハンマドの従弟のアリーと、その妻のムハンマドの娘の間の子たちこそが、イスラム帝国の正統な後継者だとする人々もいて、彼らはアリー追随派、「シーア派」と呼ばれるようになっていきます。

Ｊ ようするに、巨大なイスラム帝国は、ムハンマドが元々属していたクライシュ族のものか、それとも、ムハンマドを族長とする新生ムスリム族ものか、ということでしょ。でかくなって、イスラムになっても、アラブ人は、結局、部族制のままだったわけですね。

10.02.03. ウマイア朝とイスラムの信仰

ムアーウィヤは、自分でかってにムハンマド代理人、カリフになったとはいえ、その二十年の政治は、特権的アラブ人が原住民を遊牧する、という第三代ウマルや第四代ウスマーンの方針の延長線にありました。しかし、最後の審判に備えるイスラム教は、本来は、神の前の万人の平等が大原則。だから、地方の軍人たちは王族化するウマイヤ家に不満を募らせ、また、各地の原住民たちも貴族として搾取する駐留アラブ人軍人たちに反発を始めます。おまけに、離反したハワーリジュ派やアリー追随のシーア派は、ムアーウィアがカリフであること自体が不正だ、と、非難。