キリスト教からイスラム教へ

東ローマ帝国で強力なユスティニアヌス一世（位527～65）が皇帝になったことも、この新たな貴族修道院の活動を後押ししました。彼は、広大な東方教会領域を確保しつつ、ローマ・カトリック教会を支持し、アフリカ北岸からイタリア、イベリアへも遠征して、ゲルマン諸部族をもローマ支配下に取り込みます。

Ｊ ゲルマン人を武力で征服すれば、それだけ修道院の布教範囲、寄進領地も広がるというわけですね。

とはいえ、地中海世界の再統一なんて、そう長続きするわけもありません。征服戦争は、疫病を蔓延させ、荒廃と重税のツケとなりました。それで、彼の後、東ローマ帝国も急激に衰退縮小し、西ヨーロッパはむしろ無政府状態に陥ってしまいます。

573年にローマ市総監になった熱血の若き貴族、グレゴリウス一世（位590～604）は、ベネディクトゥスに私淑し、私財を投げ打って各地に自前の修道院を創設、ローマ教皇の使節として東ローマ帝国との連携の維持に尽力します。そして、自身が法皇になると、西ヨーロッパの傘下の教会はもちろん東方教会の司教たちにも、ゲルマン人の王たちにも、大量の指導的な書簡を送りつけました。

Ｊ でも、そんなの、前の大教皇レオ一世みたいに、やっぱり相手にされなかったんでしょ。

グレゴリウス一世は、根が政治家ですから、手紙だけ送る、なんていう野暮なことはしません。彼が同封して送りつけたのは、ローマで殉教した使徒聖ペテロの聖遺物のかけら。本物かどうかはともかく、これには霊力がある、と言われれば、だれもそれを無碍にはできない。

Ｊ ああ、私こそが天国の鍵を持つ聖ペテロの後継者だ、救われたければ私に従え、って、モノで示したわけですね。

逆に言うと、300年頃のカルタゴのキプリアヌスが言った「教会の外に救い無し」で、私に逆らうと神が許さん、地獄に墜ちるぞ、という強烈な脅しです。こうして、彼は、ローマ教皇の権威を確立し、レオ一世と並んで「大教皇」と呼ばれるようになります。でも、それだけじゃない。彼は、各地の教会と、それに連係する修道院を、地方管理機関に変え、宗教的権威だけではなく政治的権力まで創り上げて、ヨーロッパ全土を教会の支配地にし、ゲルマン人の王族を含め、その住民をすべて教会の事実上の奴隷にしてしまった。

Ｊ つまり、ヨーロッパをまるまる修道院にしてしまった、ということ？

だから、清貧・貞潔・服従の誓いが、むしろ王族から庶民まで、一般人全員に押しつけられた。その一方、司教や修道士は新たな聖職貴族となり、質実剛健を好み学術文化を嫌うローマ的な俗物性をこじらせ、貴重で高価な書画骨董を収集蓄積しつつ、それらを人々から徹底して遠ざけた。