/教科書では、株式会社は、物的な営利の社団法人、と教えられる。しかし、その実際は、むしろ意思無能力な財団であって、その後見人としての支配権と正当性が、歴史的、社会的に揺らぎ続けている。/
現代において、社会通念上、企業法人内の「従業員」に関し、「正社員」「パート・アルバイト」と「外部サーヴィス業者」の三つを区別することは、むしろ常識である。そして、「雇用」は、「正社員」と「アルバイト」の二つに限られ、「外部業者」については、恒常的に使用するにしても「雇用」ではなく、「委託」と呼ばれる。「外部サーヴィス業者」については、清掃などの特定業務をまとめて〈請負〉し、その業者の〈監督〉下において、その業者の従業員が実際の労務に当たる場合と、その業者の従業員のみを会社に派遣し、会社の〈監督〉下において、データ処理などの実際の業務に当たる場合とがあり、後者は一般に「派遣社員」と呼ばれる。
「正社員」の法哲学的概念は、立法ではなく司法において、「解雇権濫用法理」によって確立された、と言うことができる。すなわち、『民法』627①の規定では、とくに期間を定めていなかった場合、使用者も被雇用者もいつでも自由に「雇用」を解約することができることになっている。『労働基準法』20においても、使用者は、三十日前に予告をすれば、いつでも自由に被雇用者を解雇することができることになっている。そして、このような「雇用」の恣意性に対し、戦後の労使紛争、および、第一次石油ショック不況の結果、判例において、使用者の解雇権を制約する基準が成立してきた。すなわち、解雇にあたって、使用者は、①解雇実施に至らざるを得ない高度の必要性、②残業規制、新規採用や中途採用の停止、配転、出向、一時帰休、希望退職者の募集等の解雇回避努力義務、③労働組合や労働者に対する説明・協議義務、④解雇基準・人選の客観性、という四点について、充分な正当性を必要とする、とされた。そして、このような使用者の解雇回避最大努力義務によって、今日の「正社員」の恒常永続的な「雇用」の慣行が確立されたのである。
しかしながら、最初から使用者と被雇用者の合意で時間や場所を限定する「パート・アルバイト」は、解雇回避のための配転や出向ができないことを理由に、この基準の恩恵から外され、「正社員」に関して硬直してしまった人事に対し、いわば準社員、劣等社員として、低賃金の補助職に甘んじさせしめられただけでなく、もっぱら景気による雇用調整の対象とされることになった。これは、日本産業社会にある、景気対策のための企業間の[本社>下請]の二重構造の賃金待遇格差が、企業内に持ち込まれたものと理解することもできる。しかし、93年、『短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律』、通称、「パート労働法」が、罰則規定がないとはいえ、成立し、また、バブル後の極度の不景気による「リストラ」が進んだため、このような企業内の身分制は、明確に外化され、このことが、先述の「外部サーヴィス業者」を増大させる要因ともなっている。
哲学
2017.06.28
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2017.11.22
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。