/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/
「後からできたのに、古式か?」「自分たちこそ古代ケルト・ゲルマン文化の伝統の正統継承者だ、どこぞから流れてきたノルマン人のなれの果てなんかとは生まれが違うっていうことだろ」「それに対して、ロンドン大ロッジは?」「それならそれでけっこう、と、近代イングランド大ロッジを名乗るようになった」「後からできて、本家とか、元祖もないもんだろ」「ところが、世界中のメイソン、とくに保守地主層のトーリー党員たちが、なだれをうって、みんな古式側に移籍しちゃったんだ」「どうして?」「聖堂騎士団起源説だよ。三七年にカトリック・ジャコバイトの似非貴族メイソン、ラムゼーが言い出したとき、スコットランド大ロッジは即座に否定したくせに、古式大ロッジではそれを取り込んだ」「だけど、メイソンって石工だろ。なにか騎士団が起源だっていう根拠となるような文章でも出て来たのか?」「もっと簡単だよ。聖堂騎士たちの亡霊が出て来て、騎士団起源にまちがいないって」「なんだ、それ?」「おそらく、当時の最新技術だった幻灯機のようなものを使って、信じ込ませたんだろうな」「つまり、インチキじゃないか」
「いや、亡霊がインチキなのは、みんなも気づいていたかもしれない。古式が人気になったほんとうの理由は、さらにもっと俗っぽいよ。古式大ロッジ系は、以前、ラムゼーの聖堂騎士団起源説を否定していたくせに、一般三階層のブルーロッジの上に、聖堂騎士などの特別三三階層のロイヤル・アーチ・チャプター、通称レッドロッジがあるって言い出した。そのうえ、ニュートンの王認協会と違って、一般会員も、その上位ロッジに昇進できるようにした。そして、上位に昇進すればするほど、えらく儲かった」「儲かる?」「表向きは、聖堂騎士団の秘密の巨額資金の運用した配当だ、ということになっていたんだが、ほんとうはネズミ講だ。下部会員から吸い上げた会費を山分けにしていたんだ。新規会員を増やせば増やすほど昇格できて、配当も増えた。これが、一七二一年のバブル崩壊以降、投資を失って没落していく一方の、名ばかりの地方地主貴族のトーリー党員にとって、新興商人層からカネを巻き上げる大きな収入源になったんだよ」「まさに人間を黄金に換える霊的錬金術ですね」
ほら吹きたちの冒険
「でも、霊的ネズミ講のしくみは、古式大ロッジが最初じゃないよ。カトリック教会の方が本家で元祖だ。でも、吸い上げる上位は坊主だけ。どんな大貴族でも、しょせん吸い取られる側だ。だったら、メイソンの方がいい、って、みんな教会よりもメイソンロッジに行ってしまった」「去って行ってしまう信者を教会が破門しても、効果が無いよな」「カトリック教会がとくに問題にしたのは、自分たちは死んだ聖堂騎士と繋がっているなどという、古式大ロッジが持っている霊媒術的な体質だ。前にも話したように、カトリックの考え方だと、死者の亡霊は最後の審判の日まで神によって完全管理されていて、この世の側から呼んだだけで、かんたんに出て来たりするわけがない、つまり、インチキだ、っていう話だ」「実際、インチキなんだろ。でも、儲かるなら、インチキでもかまわない、って、みんな入ったんだろ」「そう、いくらカトリック教会がメイソンロッジをインチキだって非難したって、おたがいさま、くらいのもんだ。だから、次には、たとえ霊媒術がホンモノだとしても、神の許しもないのに、へろへろ出て来て、ぺらぺらしゃべるなら、そりゃ悪霊だぞ、ってケチをつけた」「例のサウルの女霊媒師と同じ二段構えの論駁だな」
歴史
2017.08.12
2017.10.04
2017.10.23
2018.01.28
2018.02.17
2018.07.10
2018.07.17
2018.07.24
2018.08.17
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。