十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

2018.02.17

開発秘話

十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/

「でも、いつ侵略されるかわからない国なんて中はガタガタだよ。アンハルト公国の中心ケーテン市の聖ヤコブ教会には、ディートリッヒ・シューマッハーなんていう上席牧師がいた」「その教会、バッハもいたところだろ」「バッハは一七二三年にザクセン選帝公国ライプツィッヒ市にとっくに去っている。いずれにせよ、ここはカルヴァン派で潔癖主義。ところが、シューマッハー上席牧師は、未亡人に手を出した。それで一七四二年に追い出された」「それから?」「ベルリン市やハレ市のロッジに潜り込んだんだが、元牧師とも思えぬ悪行と悪口のせいで満場一致で除名。その後、彼はイェーナ市だのウィーン市だので錬金術や霊媒術のオカルト研究にどっぷり漬かり込む」「まさにファウスト博士だな」

「こんなのがうろうろし始めたんで、帝国の方も取り締まりを強化しようと、五四年、二九歳のシュパウァ伯フランツ・ヨゼフを、アルプス以北の東西南北交通の要衝、マインツ市の守鍵官に任命したんだ」「シュパウァ伯って前に出て来たな」「チロル司教領の臣下だったけど、それを乗っ取っちゃった地元豪族でしたね」「マインツ市にブレンナー峠並みの警備をというわけだな」「ところが、悪いやつは、すごいよ。ここに、ヨンソンというやつが現れて、守衛官シュパウァ伯に、非金属を黄金に換える賢者の石を持っているとか、木綿を絹糸に換えるアルカリ液があるとか言って、取り入ってしまったんだ」

「そいつ、何者なんだ?」「本当は、アンハルト公国の西、チュービンゲン生まれのヨハン・ザムエル・ロイヒテ。ザクセン選帝公国の銃騎兵だったが、不名誉除隊になって、プラハなどで錬金術詐欺を繰り返していた流れ者。当然、ばれる前にマインツ市を逃げ出し、ライン河を遡って、五六年、ストラスブール市に現れた」「また錬金術詐欺ですか?」「いや、こんどは、ベネディクト会士カシミール神父などと名乗って、同会修道院に乗り込んだ」「あいかわらず大胆だな」

「そのうえ、手が込んでる。自分は、ローマから神父に身をやつして来たが、じつはスタニフルスト伯、スチュワート朝の王位継承者なのだ、これからフランスに行って軍を起こす、志あるものは我に従え、だって」「それで、本当にフランスに行ったのか」「まさか。近隣でもウソを振りまいて、捕まって有罪。ストラスブールからマルセイユに送られて、ガレー船漕ぎの刑ということに。ところが、その移送途中で脱走した」「どうせまたどこかに出て来ますよ」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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