十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

2018.02.17

開発秘話

十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/

「フランスだって、そんなに悠長な状況じゃなかった」「例のサロンの都市貴族たちか」「新大陸植民地を失い、ヨーロッパで負けた。新大陸貿易に期待していた富裕市民たちは、その怒りの矛先をルイ十五世の取り巻きのイエズス会に向けたんだ。都市貴族は、反王権だったが、それ以上にガリカニズム(フランス中心主義)の反カトリックだった。一方、国王の周辺はイエズス会で、ウルトラモンタニズム、つまり、ローマ中心主義。プロシアとフランス・オーストリアが合同で新大陸の新十字軍を起こすということになると、教皇の手先のイエズス会はジャマだった。それで、ルイ十五世も、イエズス会を国外追放」「となると、ブルボン家スペインからも追い出されたということ?」「系列のナポリ王国やシチリア王国からもだ」「イエズス会士は、みんなローマに引き上げた?」「いやいや、ローマだって、二万四千人も面倒をみきれないよ。それで、教皇クレメンス十四世も、一七七三年、ついにイエズス会解散という苦渋の選択をせざるをえなかった」「教皇みずから、親衛隊のイエズス会を見捨てたということですか?」「イエズス会は、教皇の威を借りて、貿易商社としての自分たちの勢力を拡大しようとしていただけで、むしろ実際は教皇さえも支配していたからさ」「でも、解散を命令したって、いなくなるような連中じゃないだろう?」「そう。ヨーロッパ中のイエズス会の修道院や学校は無くなったが、彼らはいよいよ田舎大学や秘密結社に潜り込んだ」「そうやって、水面下に潜ると、かえって面倒になりそうな人たちですよね」

「それと、もうひとつ、フランスで後始末に困っていたのが、大政翼賛の「フランス国民大ロッジ」。第五代大統領のクレモン公ルイは、七年戦争でハノーファー攻略軍の指揮を執ったが大敗し、サンジェルマン修道院内に政治的に引退させられてしまう。それで、もともと反王権反カトリックだった都市貴族たちは、王室財宝官ランジェ侯シャルルピエールポールを中心にメイソンの再構築を図った」「バルザックの小説に『ランジェ公爵夫人』っていう作品がありますよね」「ああ、オルレアン家の王政復古のころに書かれたものだな。旦那がオカルトマニアのメイソンで、それで浮気した、っていう話だな」「でも、公爵じゃなくてほんとうは侯爵で、ただのメイソンの一員というだけでなくて、かなりの大物だったんだな」「ああ、王室財宝官は、フランスでも最高位の官僚の一人だ」「ルイ十四世以来の国庫破綻の状況で、錬金術かなにかに頼りたくなるのもわからないではないですよね」「オカルトだの、錬金術だの、そんなものでどうにかなる程度の王室債務じゃないよ。フランスを存続させるためには、もっとウルトラCの秘策を必要していた」「というと?」「彼は、クレルモン公に代わって、すでに一七七一年にメイソンロッジ「レザミ・レユニ」を創設している」「再結の友?」「マルタ騎士団大統領ピントのエキュメニズム(世界教会主義)構想だ。聖堂騎士団と救院騎士団、つまり、プロシアとフランスを和解させ、新大陸新十字軍を起こす。新大陸の財宝が手に入れば、王室債務も解決する」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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