/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/
「ちょうど、ジェームズ・ブルースというスコットランド人ワイン貿易商が、スペインを訪れた際に、イベリア半島に残されていたアラビア文献に関心を持ち、一七六三年、大ブリテン・アルジェ領事館に職を得、自分のため、また、偽装のために、医学も学んで、六八年には医者としてエジプトのアレキサンドリア市に入り、ナイル源流まで探検する。そして、七三年にパリ市に戻り、大オリエント社の博物学者ビュフォン伯爵ら知識人たちの歓迎を受けているんだ。ところが、母国の大ブリテンでは、彼が出版したエジプト探検記は、南海バブル期の一七二六年にスウィフトが書いた『ガリバー旅行記』並みのホラ話としてバカにされた」「そんな仕打ちを受けたら、歓迎してくれたフランスの方に協力しようと思うでしょうね」「それで、エジプト十字軍か」「そっちの方が、マルタ騎士団らしいですね。プロシアも関係ないですし」「でも、プロシア抜きにフランス単独でやるとなると、資金的にも容易じゃないだろ」
「そこで、ランジェ侯は、七三年十月、まだ二六歳のオルレアン「平等」公ルイフィリップ二世を大オリエント社の大統領に担ぎ挙げた」「当時はまだ父親がオルレアン公で、彼はまだシャルル公だろ。「平等(エガリテ)」というのも、世間の通称じゃなくて、彼が革命の後に自分で勝手に公爵の肩書の代わりに使ったものだよ」「オルレアン公家って、「太陽王」ルイ十四世の弟の家系で、摂政とかやってますよね」「資金源になるほど金持ちだったのか?」「フランス国土の5%はオルレアン公家のものだ。国王と違って、公費支出が無いのだから、相当に余裕があるはずだった」「はずだった?」「王妃マリーアントワネットを目の敵にしていたが、オルレアン「平等」公も、負けず劣らずの奢侈好きで、すでに借金まみれ」「彼にカネを貸したのは?」「フランス各市の都市貴族。オルレアン公の領地税収が担保なんだから、取りっぱぐれが無い」「つまり、オルレアン公家は、王族ながら、すでに都市貴族の側に取り込まれてしまっていたというわけですね」
「本人は野心家で、都市貴族の代表かなにかだと思っていたらしいよ。それに、彼の奢侈生活も、大オリエント社も、オルレアン公家で賄える状況じゃなかった。それで、ユダヤ人金融業者から借金」「十字軍の資金をユダヤ人に借りた?」「オスマン朝トルコから中東を取り返すことには、連中も異存は無いだろ。ただ、そのせいで、大オリエント社の方向を大きく変えることになった」「?」「メイソンの起源は、もっと古いギリシアやユダヤ、エジプトだ、とされた」「その話の方が、政治状況のややこしい聖堂騎士団より面倒が少なそうだ」「そのために、大オリエント社はドパスカリのユダヤ教的なエリュ・コーエン(選良司祭団)の思想も取り込んだ。さらに、マルタ騎士団から妙な男が送られてきて、メイソンのエジプト起源説を説明し、大ブリテンのロンドン市などからも大オリエント社への出資を募ったんだ」「だれ、それ?」「シチリア島生まれのユダヤ人、バルサモ。通称、カリオストロ伯爵。マルタ騎士団大統領のピントが作ったマルタ大学で教育を受け、エジプト十字軍、つまり、大オリエント社のために、ヨーロッパ中を駆け回っていた」
歴史
2017.08.12
2017.10.04
2017.10.23
2018.01.28
2018.02.17
2018.07.10
2018.07.17
2018.07.24
2018.08.17
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。