十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

2018.02.17

開発秘話

十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/

「でも、いくら植民地経済開発にたけたイエズス会がついていたって、カトリック・ジャコバイトみたいな負け組に投資して回収できる見込みなんてあったんですかねぇ?」「いや、イエズス会が絡んでいるとなると、あながちインチキとも言い切れないんだよ」「というと?」「昔の聖堂騎士団の財宝の運用なんてウソだろうが、イエズス会は、スペインとつるんでいたころに、中南米のインカ帝国とか、アステカ帝国とかの財宝や鉱山を手に入れているだろ。だから、連中は、その延長線上の北米にも巨大な金脈があることを知っていた。もっとも実際に金が発見されるのは、それから百年近くも後の一八四九年のゴールドラッシュになってからだけどね」「あるところにはあるもんだな」「森山さん、この車の後、私たちの背中のところにも二〇〇億円あるんですよ」「うーん、あっても、あんまり実感はないもんなんだな」

「カトリック・ジャコバイトのフント聖堂騎士団や黄金薔薇十字団の成功を見て、これに便乗してインチキ商売をやろうというやつもいたぞ。たとえば、シューマッハー」「アンハルト公国ケーテン市を追放されたオカルト牧師でしたっけ」「こいつ、フィリップ・サムエル・ローザと名を変え、五八年、かつて除名されたベルリン市のドイツ大ロッジ「三つの地球」に舞い戻った」「名前を変えただけで?」「詐欺師っていうのは、まさかと思うようなことをやるもんだよ。それにローザなんていう名前は、薔薇十字団を連想させるし」「で、何をしたんですか?」「自分はクレルモン・フェラン市の聖堂騎士団から密命を帯びてやってきた、しかるべきカネを出すなら、おまえらを騎士団に入れてやらぬでもない、ってさ」「クレルモン・フェラン市って?」「南仏リヨンの西百キロくらいのところの街だな」「そんなところに聖堂騎士団が残っていたんですか?」「クレルモン・フェラン市は、一〇九五年、第一回十字軍の呼びかけ地だ。だから、当時、たしかに聖堂騎士団の拠点があったが、一三〇七年の迫害で聖堂騎士団自体がフランスでは全滅している。ただ、スペインやポルトガルでは存続していたから、イエズス会同様、フランス・ブルボン家のスペイン奪取で、自称残党がフランスに戻ってきた可能性はないではない」

「でも、しょせんシューマッハーだろ」「まず、完全なウソでしょうね」「ところが、ベルリン大ロッジより上位チャプターで、厳格戒律会聖堂騎士団より歴史的な辻褄が合っている、って、これはこれで人気になった」「ベルリン大ロッジのフリードリッヒ二世「大王」は、ほっておいたんですか?」「七年戦争でそれどころじゃなかったんじゃないだろうか」「そういうスキを狙って、火事場泥棒みたいに、こういう詐欺師が入りこむんだろ」「ただの詐欺師じゃないのかもしれない。シューマッハーは、もとはカルヴァン派の牧師だ。大ブリテンがプロシアと組むに当たってベルリンに送り込んだ諜報員だったのかも」「となると、いかにも詐欺師というのが、敵を油断させる仮の姿だった?」「そんなこと、ないだろ」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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