/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/
「さらにもう一人、ロイヒテもいるぞ」「チューリンゲン出身で、錬金術師ヨンソンとか、ベネディクト会士カシミール神父に身をやつすスチュワート朝王位継承者スタニフルスト伯とか言っていた人ですね」「ストラスブール市からマルセイユ港に移送中に逃げ出したんだろ」「そいつ、いつのまにか自称ヨンセン男爵になって、またこのあたりに戻ってきた。そして、七年戦争中の五七年、例の賢者の石の話で騙して、弱小名家のアンハルト公の秘書官になってしまった」「騙される方も騙される方だな」「さらに、翌五八年には、プロシア王国のハレ市やワイマール公国で、自分は上位の聖堂騎士団員をスカウトしに来た、って」「新大陸をめざすカトリック・ジャコバイト系のフントの厳格騎士団、プロシアの動向を伺う新教徒系のローザのクレルモン騎士団、そして、それらに続く三つ目のニセモノ騎士団だな。こいつも、どうせ昇会金集めが目的だろ」
「いや、どうも違うらしい。ハレ市やイェナ市は大学街で、自称ヨンセン男爵は小金持ちの名士たちではなく、ドイツの分断状況に不満を持っている、若くて屈強で先鋭的な学生たちを集めて、武装民兵団を組織し始めた」「そう言えば、ヨンセン男爵ことロイヒテって、不名誉除隊になったとはいえ、もともとザクセン選帝公国の銃騎兵だよな」「つまり、ほんとうに近代の騎士団を作ろうとしていたということですか?」「まさか。これまで、ずっと詐欺ばかりやってきた男だぜ」「でも、それまでに騙してきた相手は、いつも貴族や僧侶だ。もともとアンシャン・レジーム(旧体制)に強い不満を持っていたのかもしれない」「じゃあ、ヨンセン騎士団は、フント騎士団に対抗して義勇軍としてプロシア側に付いて、反カトリックで戦うつもりだったのか?」「いや、カトリック守旧勢力でも、プロシア新興勢力でもない、第三の共和主義勢力。むしろ彼が目指していたのは、市民革命だろう」
「フント男爵のカトリック・ジャコバイトの厳格戒律会と、偽ローザのプロシア主義のクレルモン・システム、それに偽ヨンセン男爵の市民革命主義の武装民兵団の三つの新聖堂騎士団の中で、結局、どれがチューリンゲンの諸ロッジを傘下に収めたんだ?」「新大陸移住計画の厳格戒律会だよ。まさに中世の十字軍と同じだ」「じゃあ、それに付き従って、みんな新大陸をめざした?」「いや、それ以前に、七年戦争とともに、新大陸の受け入れ側に問題が生じていたんだ。新大陸では、アパラチア山脈より東岸が大ブリテン植民地、中西部はフランス植民地ということになっていたのに、七年戦争のころには、東岸南部のヴァージニア州の連中は、すでにアパラチア山脈の西側、ウェストヴァージニア州やオハイオ州にまで進出していった。それで、フランスはそれを排除しようとした。ところが、ジョージ・ワシントンをはじめとするヴァージニア州の連中はそれを逆恨みして、過激な民兵団を組織し、フランス人植民地を襲撃して女子供まで住民を皆殺し。それで大ブリテンの正規軍まで呼び込んで、とともにカナダまで分捕ってしまった。おまけに、ペンシルヴァニア州とニュージャージー州の間のデラウェア州、南部のヴァージニア州・ノースカロロライナ州・サウスカロライナ州・ジョージア州でも国境争い。それぞれの州の中でも、大領主たちが農園の移民労働者たちを巻き込んで、勢力争いだ」「カトリック・ジャコバイトの新王国ができるとなれば、大量の新貴族ですものね。いまのうちにできるだけ拡大しておきたい、というのも当然ですよね」
歴史
2017.08.12
2017.10.04
2017.10.23
2018.01.28
2018.02.17
2018.07.10
2018.07.17
2018.07.24
2018.08.17
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。