十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

2018.02.17

開発秘話

十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/

「ここで出てくるのが、ファウスト博士だ」「ゲーテの戯曲で有名ですね」「鈴ちゃん、あれさ、実在の人物なんだぜ」「ほんとうに?」「ああ、森山がいうように、実在の人物だ。ただし、ろくなもんじゃない。エラスムスやパラケルスス、アグリッパ、ルターなんかと同じころの放浪医師なんだが、大酒飲みの酔っ払いで、悪魔礼拝だ、霊媒術だ、錬金術だ、と、大ホラを吹きまくり、一五三八年、飲み過ぎで死んだ」「そんなチンケなやつなのか?」「十六世紀後半、ユグノー戦争でカトリックとカルヴァン派が激しく戦っていたころ、ルター派はすでに存在感を失ってしまっていた。それで、この劣勢を巻き返すために、ファウストを引っ張り出してきた。アグリッパやパラケルススやノストラダムスのさまざまな伝説的エピソードを盛りつけ、ファウスト博士を史上最大の恐るべき魔師にでっちあげた『ファウスト物語』を、一五七五年頃、パンフレットとして大量に印刷した。旧教イエズス会のような学問教育や、新教カルヴァン派のような上昇志向こそが、このような魔師を生み出してしまう、人間はルターの言うように知識も野心も捨て、ただ愚直な奴隷として神に隷従していればよい、と説教した」「シェイクスピアの時代の、クリストファー・マーロウなんかも採り上げていますよね」「その話をこんどはカトリック教会が使った?」「メイソンのような科学主義や上昇志向は、かならず手ひどいシッペ返しを受けるぞ、おまえらは知らないだろうが、メイソンの首領は、じつは悪魔メフィストフェレスなんだ、やつは契約によって会員に財産と地位を与えるが、最後には生命を奪ってしまうんだぞ、ってな」「なんで、カトリック教会は、メイソンの首領が悪魔メフィストフェレスだって知ったんでしょうね?」「さあね」

「だいたい、メフィストフェレスって何なんだ? そんな悪魔、どこから出て来たんだ?」「さあ、おれも知らないな。ファウストの話より前に、やつの出典は無いんじゃないだろうか」「マーロウの戯曲だと、ルシファーの子分っていうことになっていましたよ」「悪魔とか悪霊とかなんて、キリスト教じゃ、結局、みんなサタンの子分だよ」「ルシファーの方は、サタンの別名として四〇〇年ころの教父ヒエロニムスからよく知られてるけどなぁ」「ヘブライ語源なら、メフィァ・トフェル、大ボラ吹き、という意味になる」「メフィストフェレスが? それともファウスト博士が?」「さあ?」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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