十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

2018.02.17

開発秘話

十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/


三つの聖堂騎士団

「でも、いくら小国であろうと、軍事力で侵略できても維持できない。それはプロシアのフリードリッヒ二世がよくわかっていだろう。シレジアを巡る、この七年戦争のように、周辺の大国が許さない」「となると?」「外交だよ。それらの小国の有力者たちの世論を味方につける必要があった」「で、メイソンロッジか」「そういうことだ。それでまた、怪しげな連中が、あちこちのロッジをウロウロし始めた。最初が例のザクセン選帝公の子分、フント男爵。またパリのジャコバイト僭称王チャールズ三世に呼び出されて行くと、「赤い羽根」とかいう騎士が、おまえを「厳格戒律会(ストリクト・オブサーヴァンス)」聖堂騎士団の統帥(ヘアマイスター)に叙してやる、って言うんだ。そして、第七管区のドイツをおまえに任せるから、みな、「知られざる上官」に従え、なんて言われて、チューリンゲン諸都市のロッジ説得に奔走することになる。もともと三七年に聖堂騎士団起源説を言い出したエセ・バロネットのラムジーがカトリック・ジャコバイトなんだから、カトリックに改宗したザクセン選帝公が、反ブリテンのために聖堂騎士団を持ち出すのも理にはかなっているんだが」

「うまくいったのか?」「まあまあだな。大ブリテン大ロッジ系のドイツ支部のひとつにすぎなかったプロシア・ベルリン市の「三つの地球」が、フリードリッヒ二世の威光を背景に、ドイツ大ロッジとして、チューリンゲン周辺諸都市のロッジを傘下に収めようとしてきた。これに対して、より上位であるかのような聖堂騎士団が出てくれば、そっちの方が人気になる」「だれだって、石工より騎士の方がかっこいいと思うだろうしな」

「それだけじゃない。フント男爵の言う厳格戒律会は聖堂騎士団の秘宝を運用しており、上位者には終身年金が出る、という話までついていた」「インチキくさいな。それ、その軍資金でジャコバイトが大ブリテンを取り戻せたら、みんなラムジーみたいに下級貴族に叙して、大ブリテンの国庫から貴族年金を支払ってやるというカラ約束なんじゃないのか?」「だいいち、ジャコバイトって、四五年の蜂起に大失敗しちゃったんですよね。まだ大ブリテンを奪還する気だったんですか?」「いや、新大陸だ。前にも話したように、中西部はカトリックのフランス植民地、南端部フロリダもフランスが吸収したカトリック・スペインの植民地。東岸中部はジャコバイト。東岸南部のノースキャロライナ州、サウスキャロライナ州は、移民開拓者たちを抑えきれなくなって一七二九年に領主権を大ブリテンに返上したが、その移民開拓者というのが、ヨーロッパで貧窮するアイルランド人やスコットランド人、ドイツ人。一七三二年に新たにできた棄民植民地ジョージア州も似たようなものだった。だから、新大陸は、熱狂的な清教徒たちのマサチューセッツ州のような東岸北部を除いて、カトリック・ジャコバイトで再統一される可能性が現実にあったんだ」「意外ですね」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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