/キリスト教はローマ帝国の皇帝崇拝と多神教を拒否して迫害された、と答えることになっている。しかし、迫害ばかりされていたら、大帝国を乗っ取るほど教勢が伸びるわけがあるまい。/
J キリスト教は?
64年のローマ大火処刑と70年のイェルサレム破壊で、パウロ派、使徒派、エビオン派、ともに新規の布教は勢いを失い、終末論の熱気も冷めてしまいます。それでも、各地の会衆は存続し、都市によっては、専用の聖堂が建てられ、専従の司教が常駐するようになりました。しかし、教会は、あくまで長老たちが運営し、長老たちによって選ばれる司教も事務的な仕事のみで教義を語ることは無く、礼拝ではイエスの伝承や伝道者たちの手紙が読み上げられました。
また、反乱ユダヤ人に対するギリシア語文化圏の人々の嫌悪から、グノースティシズムという新興宗教も現れます。これは認識主義という意味で、オルフェウス教やピタゴラス教団、プラトン、ストア派のヘレニズム思想に、反ユダヤ教がくっついたもの。ユダヤの神、つまり、地上界や肉体、律法という牢獄を創ったのは、じつは悪魔だ、とし、我々は地上界や肉体、律法に惑わされず、霊のみによっての天上界の真の神を知ることで救われる、と言います。そして、これを一部の教会が取り込んで、イエスこそ、ユダヤ教の悪魔神を倒し、肉体を捨て、霊に生きることを教える真の神であり救世主だ、と言い出します。
J えーと、となると、キリスト教の中に、ギリシア語系新生主義からユダヤ語系伝統主義まで、大きくグノーシス派、パウロ派、使徒派、エビオン派の四つがあって、いまだに揉めていた、ということですね。
いや、もう一つ、このころヨハネ派というのもできたようです。ヨハネは十二使徒の中でもとくに若く、イエスの生前、ヒゲも無い紅顔の少年で、「イエスの愛した弟子」として、母マリアやマグダラのマリアらとともに、イエスのすぐそばに仕えていました。そして、イエス磔刑の後は、使徒の長、ペテロに付き従って各地を伝導。しかし、そのペテロも64年のローマ大火で処刑されてしまうと、トルコ西岸のエフェソス市で、母マリアやマグダラのマリアらとともに暮らし、独自のイエス事件の理解を語ったようです。
J あー、どういう感じの人だったか、イエスとどんな関係だったか、なんとなく想像できちゃうけど、それを言ったら、教会が激怒するんだろうな。
それ、ユダヤ教の律法で禁じられてましたからね。ユダヤ教の律法なんかどうでもいい、というパウロも、同性愛だらけのヘレニズム・ローマにあって、ユダヤ教以上の激烈なホモフォビア。おまけにマチスモ(男尊主義)のミソジニー(女性嫌悪)で、「女は黙ってろ、ただ男に従え」とか平気で言っている。
歴史
2020.02.19
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2020.11.18
2021.01.12
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。