組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
バリューワークが生まれる組織を作るには、会社と従業員がお互いにとって最適な存在になることが必要だ。従業員に対して、一方的に経営にとって最適な人材になるよう求めるのではなく、従業員の人生にとって最適な会社になるよう努めなければならない。互いの成功を支援しあう関係である。経営が、事業の成功と同じように従業員の人生の成功を大切に考え、それに貢献できる仕組みづくりや支援を行う。従業員は自分の成功を応援してくれているという実感があるから、会社の要望を受け入れ、その目指すところに協力しようと思える。このような、相互に最適な状態であろうとする好循環を生み出していくことが必要だ。したがって、人事部は「従業員の人生の成功を支援する」ことを、もう一つの役割と考えなければならない。
当然だが、人生の成功に向けた支援とは、報酬を上げることや福利厚生の充実を意味するものではない。高い報酬や福利厚生の充実は、事業の成功が前提であり、その成功に対する各々の貢献度に比例して与えられるべきものであるからだ。また、成功とはカネで測定できるものではなく、成功の観点も基準も人それぞれである。「従業員の人生の成功を支援する」とは、従業員それぞれが成功をどのように捉え、どのように努力したいかを知り、それらに対応可能な幅広い選択肢を持った柔軟な仕組みを整えること、従業員それぞれの困難な状況やハンデ・障害を理解し、それを乗り越える支援を個別に行うこと、という二つを意味している。
このような会社と従業員の関係がなければ、『キャリア・エントラスト』も成り立たない。キャリア・エントラストでは、「優れたキャリアは、組織を信じ、職場の仲間と良好な関係を築き、“自らの職業人生のこれからを敢えて組織や職場に委任する(entrust)”ことによって形成される。独善的な目標や計画、孤立した学習や努力ではなく、組織や職場の仲間との協創によって優れたキャリアが実現する。」と考える。会社は従業員の成功を、従業員は経営の成功を、お互いに大切に考え、そのために互いに最適な存在であろうとする。そのような相互に信頼しあう関係において、はじめて従業員は自らのキャリアを職場に委任することができるようになる。逆に、そのような関係になければ、それぞれが勝手にキャリアを計画し、独善的な学習をするから、会社や人事部がやりたい「組織や人材の最適化」はいつまでたってもおぼつかない。
新しい「日本的人事論」
2018.02.05
2018.02.15
2018.03.10
2018.03.23
2018.04.07
2018.04.23
2018.05.14
2018.05.29
2018.06.16
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。