組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
キャリアとは、積み重ねてきた仕事やその結果の軌跡である。キャリアはどのような仕事をどれくらいやってきたか、つまり「仕事の価値」と「仕事の量」によって評価される。キャリア=「仕事の価値」×「仕事の量」だ。注意すべきは、掛け算であることで、価値の低い仕事をいくら沢山やっても高い評価はなされない。従って、キャリアを考えるときは、その仕事の価値に着目することが重要になる。
では、仕事の価値をどのように考えるべきか。
まず、仕事の価値は職業の名称とは一致しない。医師だから弁護士だから社長だから、仕事の価値が高いとは限らない。逆に、定型的な業務だからといって仕事の価値が低いとは限らない。なぜなら、仕事の価値は自分が決めるのではなく、顧客や関係者によって評価されるのが原則であるからだ。ステイタスのある職業に就いていても、顧客や関係者から評判の芳しくなければ、その人が行っている仕事の価値は低い。誰でも出来そうな職業であっても、余人をもって代えがたいという評価を得る人の仕事の価値は高い。
また、時代が変われば、職業のステイタスも変化していく。どんなにステイタスが高かった職業でも、供給が過多になったり、知識や技術が陳腐化したり、社会的なニーズが希薄になっていけば、そのステイタスは低下する。仕事の価値は職業の名称とは一致しない。私達は、自分がやっている仕事は、顧客や関係者にとってどのような価値があるのかを常に考えなければならない。
同じ仕事でも、取組み方によってその価値が変わるという点も重要だ。仕事への取り組み方は、その目的に左右される。目的を高く、明確に持って取り組むことで、やっている仕事の価値を上げることが可能になる。
コンビニエンスストアには、お客様の顔とその人が頻繁に買うものを覚えている店員がいる。そういう人は、お客様にさわやかな声がけができ、お釣りや商品の渡し方も素早くスムーズである。一方で、ただレジの作業をしつづけているだけの人がいる。この差は、器用さや経験というより、それぞれが抱いている目的に起因する。前者の人の目的は「気持ちよく、ストレスなく、お店を利用していただくこと」で、後者は「マニュアルに沿って、間違いなく商品とお金のやりとりをすること」といったところだろう。目的が仕事上の言動を大きく左右するとともに、前者が「顧客にとっての価値」を重視しているのに対し、後者の思考には「顧客」が存在していないことも分かる。
新しい「日本的人事論」
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。