組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
仕事は、毎日 全然違うことをしているわけではないので、どうしても繰り返しの中でマンネリ化が避けられない。どのような仕事であれ、熟練すればするほど事態をパターンで認識し、既存の引き出しで対応できるようになるから、だんだんと刺激や面白味に欠けてくる。また、熟練度合いが低い人、やらされ仕事で面倒を感じている人、保身を第一に考えるような人といった場合は、仕事をミスなくつつがなく行うこと、仕事を指示通りに進めることが目的化してしまいがちだ。いずれのケースでも、「自分がやっている仕事は、顧客や関係者にとってどのような価値があるのか」に注意を払っておかねければ、仕事の目的が曖昧で希薄になっていくため、仕事の価値は低下してしまうことになる。
●価値の低い仕事とは?
自分の仕事の価値を高めるのと同時に、価値の低い仕事に気付いたら見直さねばならない。価値の低い仕事は、価値の高い仕事に割く時間を減らし、心身を疲弊させるからである。では、見直しが必要な「価値の低い仕事」とは何か。
①顧客や社会の変化に対応しない、昔と同じやり方の業務
②工夫や改善が見られず、同じように繰り返されている業務
③ルールや前例に固執する、柔軟性に欠けたお役所仕事
④勉強不足・情報不足、自前主義の平凡な仕事
⑤現場の付加価値時間や活力を奪う、過度の規制や監視
⑥組織や人のシナジーが感じられない、内向きの業務
⑦意味や目的が曖昧な、儀礼的・慣習的な業務や会議
社会や顧客は変化し、知識や技術も進歩していくから、昔に良かったものがずっと通じるわけではない。昔に価値があった仕事が、ずっと価値を保ち続けるはずはない。したがって、①~④にあるような旧態依然の仕事の価値は、どんどん低下する。⑤~⑦は組織に関わるものだが、顧客にとっての価値を高めるには、組織の様々なルール・仕組みを柔軟に変更し、働く人たちが協調しながら顧客に向き合う時間を増やし、顧客への対応力を高める努力が欠かせない。
社会や顧客の変化に合わせ、顧客や関係者のニーズに焦点を当てて、「自分がやっている仕事は、顧客や関係者にとってどのような価値があるのか」を常に考えながら、高く明確な目的を持って取り組む。これが価値ある仕事“バリューワーク”である。一方、①~⑦のような、内向きで旧態依然の仕事は“ノン・バリューワーク”と言えるだろう。“バリューワーク”に時間を割き、“ノン・バリューワーク”を取り除かねばならない。良質なキャリアは、バリューワークを積み重ねることでしか獲得できないからだ。
【つづく】
新しい「日本的人事論」
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。