「評価制度」が仕事の価値を下げている(【連載7】新しい『日本的人事論』)

画像: Kazuhiro Tsugita

2018.05.14

組織・人材

「評価制度」が仕事の価値を下げている(【連載7】新しい『日本的人事論』)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

前回は、バリューワークを生み出すには、「各々の強みに焦点を当てること」、同時に「標準化(非ダイバーシティ施策)を行わないこと」が重要であると述べた。標準化の際たるものが、基準を設け基準に基づいて評価・処遇を行う「評価制度」であり、基準を設け基準に合うように研修などを施す「人材育成」である。では、どのような仕組みの中であれば、バリューワークが生み出されるのか。今回と次回では、基準に基づく評価・処遇・育成に代わる、バリューワーカーの育成方法について考えてみたい。

●バリューワーカーの視点・態度

バリューワーカーは、外部に視線を向けている。外部とは、顧客であり、パートナーである。顧客やパートナーの心理や真意を把握することに注力し、その満足感を高めるためにどうすべきかを常に最重要課題としている。その結果でもあるが、外部への視線は、歴史や背景にも向けられる。この事業・業務を時系列で理解し、どのような経緯を経て現状に至っているかを知ろうとする。目の前の事象に反応しているのではなく、プロセスを踏まえた対応こそが顧客やパートナーの満足には当然、不可欠であるからだ。

バリューワーカーは、外部環境が変化することを前提としている。だから、市場や顧客、パートナーの変化に対して、習慣的かつ自然な欲求として関心を持ちつづけている。その関心は、お客様やパートナーとの深い対話と関係、社外の多様な人々との付き合い、多様な機会を利用した学習につながっていく。変化を前提にしているから、創造・挑戦・改善・工夫は業務に取り組む際の基本姿勢となる。創造・挑戦・改善・工夫を行うから、PDCAが分かりやすく回転する。

ノン・バリューワーカーは、内部に視点を向けている。内部とは、自分の人事考課に関わる者や、一緒に仕事をしている関係者である。したがって、自らの仕事の進め方が定められた内部のルールに適合しているかどうか、上位者の意向に反したり、関係者の手を煩わせたりしていないかどうかが最重要課題となる。顧客の声は聞こえているし、業務プロセスが効果的でないことも感じているが、それが新しい取り組みや改善・工夫を要するのであれば、失敗するかもしれないし、周囲にも手間をかけてしまう可能性があるという理由で、簡単に“なかったこと”にし、忘れてしまう。

ノン・バリューワーカーは、外部環境の変化に浅い関心を向けている。外部の変化が、いつか内部に及ぶ事態を想像せず、あるいはその事態に対する備え・準備を先送りしながら、内部における適切な言動に最大の関心を持ち続ける。もちろん、外部の変化が少しづつ自分にも及んでいるのを感じてはいるが、想定の範囲内、まだまだ先のこととして無視し、上位者が「変われ」「変えろ」と言うまで待ちの姿勢を維持する。その結果は、前例踏襲が基本姿勢となり、「何もしない」「何も変えない」という結論を導くことを目的とした調整や会議を繰り返す。「何もしない」「何も変えない」という結論を導くためのロジカル・シンキングが得意である。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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