組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
キャリアとは、貢献の軌跡である。過去に所属していた組織やそこでの役職・役割・結果等では情報不足で、キャリアを十分に表現したことにはならない。キャリアは、次の5点で表現される。
①いつ、誰とどのような業務・課題に取り組み、どのような結果・成果を残したか。
②その際、どのような困難・障害があり、どのようにして乗り越えたか。
③その仕事の顧客・関係者は、何を得て、どのように変わったのか。
④その仕事の経験によって、自分は何を得たか、身に付けたか、学んだか。
⑤その仕事の客観的な評価および自己評価は、どうか。
これらの情報を時系列に列挙したものが「実質的なキャリア」であり、所属組織や肩書きやポジションや資格や表彰の履歴といったものは、「外形」に過ぎない。外形だけで評価されるのは、大企業経営者や政治家、官僚、芸術家などの限られた職業だけであり、ほとんどの職業人にとっては、キャリアの実質を振り返って表現しておくことが、豊かな職業人生を送る上で極めて重要だ。転職などの機会でなくとも、数年に一度はキャリアの実質に関する記述に取り組むべきだし、人事部も従業員の履歴を外形ではない形で把握しようとする姿勢が求められる。
①~③を見れば一目瞭然だが、キャリアを積み重ねるには「貢献」が必要である。顧客や組織に対してどのように貢献してきたかという軌跡がキャリアなのであり、役職やポジションや表彰暦などはその時々の外形的な結果に過ぎない。だから、良質なキャリアを築こうとするのであれば、常に「どのようにして、顧客や組織に対する貢献の機会を得るか」を考えることだ。ただし、この答は簡単である。貢献の機会は、貢献した者に与えられる。貢献した者は期待を集めるから、また新たな機会を与えられる。そして、その貢献が大きければ大きいほど、大きな貢献の機会が与えられる。貢献の大きさと、与えられる機会の大きさは比例する。キャリアを築くには顧客や組織への貢献が必要だが、貢献する機会のほとんどは過去に行った貢献によって得られ、同時に貢献の程度が大きいほど、次に大きな機会を得られるのである。
与えられた機会によって、能力も伸長する。能力は、機会における他者からの刺激によって伸びていく。座学や研修や読書は、能力を磨く手段というよりも、機会を得て経験したことを体系化・抽象化・原則化するための手段として、あるいは機会の意味づけやこれから得る機会への備えとして有効なものである。貢献できず、その結果として機会も得られない状態で、座学や研修や読書に励んでも能力の向上はたいして期待できないし、それらから学んだことだけで顧客や組織に貢献することも難しい。
新しい「日本的人事論」
2018.04.23
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2018.06.16
2018.06.29
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2018.09.07
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。