組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
藤井聡太七段は、「詰め将棋」を解く力では既にプロ棋界でもナンバーワンである。しかし、トップ棋士には対戦成績があまり芳しくないことでも分るように、将棋の勝負ではまだナンバーワンではない。これは、詰め将棋が「正解のある具体的なクイズ」であるのに対し、将棋は「具体的な指し手を考える前に、状況判断や方針の立案などの抽象的な思考が重要になる勝負」であるからだ。詰め将棋では「何をすべきかが指示されており、それをいかに速く正確に行うか」が重要だが、将棋の勝負においては「何をすべきかを自分で導き出す力」が重要になる。詰め将棋は「問いに答える力」、将棋の勝負は「問いを作る力」がポイントになると言ってよい。
「問いに答える」には、論理が求められる。指示を速く間違いなく遂行するには、モレや見落としがあってはいけない。また、形や決まりを覚えておくのも大切である。こういう時はこうするものというパターンや定跡を知っていれば知っているほど、(いちいち考えなくてもいいから)早く正確に答を導ける。その意味では、数をこなして慣れておくのも重要で、パターンを身体で覚えて無意識に近いほどの感覚で処理できるようになれば、たいしたものだと評価される。
「問いを作る」には、グランドデザイン(大局)を描く力が求められる。将棋で言えば「現状は有利か不利か」「ペースはどちらにあるか」「互いの経験値はどうか」「勝つとしたらどのような形か」といった視点から、今、どのような方針のもとに指し進めていくのが良いのかを考える。これは、論理ではなくクリエイティブな思考である。感想戦(勝負がついた後に両棋士が感想などを述べ合う時間)の会話では、「方針を間違った」「大局観がおかしかった」といった声が聞かれるが、そもそもの「問い」が誤っていれば具体的な指し手も正しく導けないということだろう。
仕事においても、同じことが言える。「問いに答える力」ばかり磨いても、ビジネスをリードできるレベルにはなれないし、優れたキャリアを築いていくことはできない。(私が、詰め将棋のトレーニングをいくらしても大会で勝てない状況にあるのと同じだ。)たしかに、上司や周囲からの指示・要望に対して、いつも速く正確に遂行・リアクションできる「問いに答える力」のある人は優秀だと認められやすい。どんな球が飛んできても、しっかりと芯で打ち返せるバッターのようで、構えにもスキがなく安心してその業務を任せることができる。しかし、そのような「答える力」だけでは、ただの職人でしかない。(一流の職人はそうではない。)
新しい「日本的人事論」
2018.06.29
2018.07.18
2018.07.28
2018.08.20
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2018.11.17
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。