組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
●「問い」とは何か
「問い」とは、仕事の状況をヒアリングするような単純な質問のことではない。報告・連絡・相談といった類の話でもない。「問い」とは、『“顧客や環境”と“自分たちの仕事の提供価値”について大局・高所・本質から捉え直し、最適な状態を目指すきかっけを創ろうとするもの』である。それは、仕事にミスやモレがないようするためのコミュニケーションに比べて、はるかにクリエイティブだ。正解がなく、誰もが容易には回答できない困難な質問である。人によって見方や考え方が違うから、合意にはパワーを要するし、そのプロセスは創発的でなければならない。「問い」とは、日常的に発せられる質問とは異なる「クリエイティブ・クエスチョン」である。
質問を以下のように分類すれば、「①創造のための問い」が、クリエイティブ・クエスチョンに当たる。現状について健全な懐疑精神を持ち、ゼロベースで環境変化や顧客価値の観点から、仕事を一緒に考え直してみようとする問いである。
それ以外の問いは、クリエイティブ・クエスチョンではない。「⑤把握のための問い」は、もっぱら単なる業務管理者によってなされる質問だ。「④相互理解のための問い」は、良好な関係や空気の中で仕事を進めようとする人達が得意とする。「③診断のための問い」は、上司が部下を育成しようとする際や、他部門や他社とのジョイントで業務を進めるケースの前段でなされる。「②協調のための問い」は、チームでシナジーを生み出そうとするものである。
変革を担う者は、クリエイティブ・クエスチョンを投げかけるスキルと姿勢が必要だ。生産性向上への努力も、クリエイティブ・クエスチョンがなければ微小な改善にとどまるだろう。組織や人を進化させつづけるマネジャーは、クリエイティブ・クエスチョンを上手に投げかけている。自律的に進化する人材は、クリエイティブ・クエスチョンを自らに投げかけるとともに、「私は今、どのような問いに答えようとしているのか?」を忘れないので、日常の業務に埋没し、思考停止に陥ることがない。
【つづく】
新しい「日本的人事論」
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。