組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
バブル崩壊以降、働く人々にとって、会社は一生面倒をみてくれる存在ではなくなった。大企業といえども、倒産したり、存亡の機に立たされたりすることがあるのだから、信用しきって自分の人生を任せることは難しいという認識が広がった。将来的に人員削減の対象になるかもしれないし、在籍する会社の処遇体系が変われば生活水準の維持も難しくなるかもしれない。だから、いつどんな環境変化があってもやっていけるような、力のあるビジネスパーソンでいることが大事だと考える人が増えた。会社と従業員は「主従」の関係ではなく「対等」なのであり、会社に身を預けるのではなく、自分の人生は自分の力で切り開かねばならないとする主張も受け入れられるようになった。
もちろん、会社だって従業員全員に先々の保証ができるわけはないし、必死になって費用を削ろうとしているのに、しがみつかれるのも困る。あれをして欲しい、これをして欲しいといった要求ばかりしてくるのではなく、自分の食い扶持は自分で稼ぎ、自分の生活は自分で組み立てられるような社員が望ましい。会社が用意する地位・報酬・福利厚生・研修などに頼らず、自分の道は自分で切り開いてほしいというのが本音だ。こうして、両者にとって「自立」がキーワードになった。不確実な時代の到来により、社員は自立しなければならないと考えるようになり、会社も社員に自立を求めるようになったのである。
両者の姿勢が一致するのは悪いことではないし、働く人たちが、会社の中に閉じこもって与えられるのを待っているのではなく、自分の人生に対して自分で責任を持つようにするのは、そもそも当然の姿であるとも言えるだろう。勤める先に自分の人生や家族を預けるような感覚になったのは、終身雇用が前提の“日本型・正社員”が普及したせいぜいここ五十年程度のことでしかないし、欧米諸国にはそのような制度も感覚も、もともと存在していないからだ。
しかし、優れたキャリアの構築を考えるとき、この「自立」という言葉をその意味通りに理解してしまうのは危険である。自立とは、「自分以外の何の助けなく、何からも支配を受けず、自分の力だけで物事を進めている状態」といった意味だが、このような状態を作ってしまうとキャリアに支障が出てしまうからだ。
●自分は、何に依存しているのか?
あらゆる仕事において、「自分以外の何の助けなく、何からも支配を受けず、自分の力だけで物事を進めている」ことは有り得ない。従って、そもそもその言葉の意味通りの「自立した」職業人など存在しない。全ての仕事は、多くの人やモノや情報に依存しているのである。
新しい「日本的人事論」
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。