組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
無限定な働き方をする、日本特有の”正社員制度”は、人に値段をつける評価制度をベースとし、その値段に見合った(と思われる)仕事・役割を会社が見繕って(半ば強制的に)与える仕組みであり、『長時間労働が解消できない』『働く人々が学ばなくなる』『多様性が失われる』『同一賃金同一労働が実現できない(不公平処遇が残り続ける)』といった結果につながっていることは、前回、指摘した。もちろんバリューワーカーも、このような制度のもとでは生まれにくい。
多様な人々がそれぞれの強みを活かし、伸ばしながら働いている。それぞれが自らの意思で、人生や生活と労働とのバランスがとりながら、フェアな処遇のもとで働いている。ほとんどの経営者は、そんな状況を望ましいと思うだろうし、社員の幸福感やモチベーションは高まるだろう。活き活きと多様な働き方をする人々が生み出す工夫やイノベーションが業績向上につながり、それぞれが抱く幸福感は言動の主体性や組織へのロイヤリティを高め、職場への定着も進む。このような状況を目指すには、人に値段をつける「無限定・正社員制度」から、仕事に値段をつける「ジョブ・プライス制度」に変える必要がある。
仕事に値段をつける仕組みにすれば、仕事の価値が可視化される。仕事に値段をつけるには、その根拠を明らかにする必要があるが、それによって職務(「具体的で詳細な職務内容」「職務権限、職務の範囲」「チーム構成(誰とやるか)」「仕事量」「職務遂行に要する時間」「期待される成果」「求められるスキルやノウハウ」など)が明文化される。会社の中に、どのような価値の仕事が、どれくらいあるかがハッキリする。また原則的に、仕事の値段の合計が、社会保険料などを除く総額人件費と一致する。
職務(仕事の値段の根拠)を明らかにすれば、属人化した仕事が減るはずだ。人に仕事を貼り付けたまま何年も異動を行わないと、その人しかできない職人芸、その人しか知らない情報やノウハウが溜まっていく。業務はマンネリ化し、蛸壺化し、改善や工夫のない旧態依然の繰り返しになりやすく、仕事の価値は相対的に低下してしまう。仕事の価値の向上、生産性の改革という観点においても、「ジョブ・プライス制度」の導入は欠かせない。
●「ジョブ・プライス制度」はどのように導入するか
では、仕事に値段をつける「ジョブ・プライス制度」は、どのようにすれば実現可能だろうか。そのステップを考えてみたい。
新しい「日本的人事論」
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。