会社の中にある3つのバリアー(【連載13】新しい『日本的人事論』)

画像: Daniel Jolivet

2018.08.20

組織・人材

会社の中にある3つのバリアー(【連載13】新しい『日本的人事論』)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

優れたキャリアは、本人と会社の協働によって築かれる。本人の努力だけで、本人も会社も満足できるような成長が実現するわけではない。そもそも日本では、働く人がその仕事や役割を選べる仕組みにはなっていないから(いつどのような仕事に就くかは会社任せという仕組みだから)、「自分が学ばねばならないこと」と「会社ができるように求めること」を一致させる必要があるからだ。仕事も役割も会社が決定して本人へ強いているのに、自分のキャリアは自分で築けというのは筋が通った話とは言えないし、だからそのようなスタンスの企業では人は育たず、定着もしない。

会社は、従業員の仕事や役割を決定する権限を行使する一方で、それぞれのキャリア形成を個別に検討・サポートする責任や義務を負っていると考えるべきである。もちろん、その責任・義務には但し書きがある。所属そのものに満足し、仕事や役割や収入が変わることや将来に向けた成長などに関心がない従業員はもちろん存在する。職業や仕事は人生の一部であるから、そういう生き方を否定してはならないが、キャリアに関心がない人たちに対してまで会社がキャリア形成に責任を持つ必要はない。また、経営幹部や一定レベル以上の管理職など、すでに会社からの施しを期待すべきではない人達に対しても同様だ。彼らに対して「自分のキャリアは自分で築け」と言うことは、筋が通っている。一方、高齢者や障碍者の一部で、働くこと自体が大事であったりそれに喜びを感じたりしている人、時間的な制約の中で生活とのバランスをとりながら働いている人たちなどに対しては、キャリア形成への責任はあるが、その支援の内容や姿勢は同じではないだろう。

会社が従業員のキャリア形成を支援するとは、単に研修を強化するという話ではない。研修でキャリアが出来れば苦労はしないし、研修を受ければ受けるほど成長するなら人材育成に悩む会社はない。研修は常に、現実との関連を持ってはじめて意味がある。研修は積み重ねてきた経験を体系化・原則化する機会でなければならないし、研修で学んだ新たな視点やスキルを現実に実践・応用できる職場でなければならない。また、研修は、現実を離れて学ぶ習慣のない人には大した成果をもたらさない。自分にとって現実的かつ個別具体的なこと以外に関心がなく、すぐには役に立ちそうもない抽象的な内容に対して思考が停止してしまう人にとって研修は苦痛でしかない。日ごろの仕事の改善や新しい方法などの創造について闊達なコミュニケーションが行われ、学び合い教え合うような職場で思考を鍛えておかなければ、研修は唐突な機会でしかない。要するに、学びに対して意欲的な職場づくりを行わなければ、研修強化は無駄になるということだ。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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