ダイバーシティとキャリア形成の関係(【連載6】新しい『日本的人事論』)

画像: けんたま/KENTAMA

2018.04.23

組織・人材

ダイバーシティとキャリア形成の関係(【連載6】新しい『日本的人事論』)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

良質なキャリアを築くには、仕事の量ではなく、いかにして仕事の質を高めるかという発想が大切になる。前例を継続・反復していたり、誰にでも出来ることをいくら沢山やっても優れたキャリアにつながらない。仕事の質を高めるには、自分がやっている仕事が「誰にとってどのような価値があるのか」を問い続けることが重要で、このような問いを持ち続けた結果として、バリューワーク(価値ある仕事)が生み出される。

「私の仕事は、誰にとってどのような価値があるのか」という問いは、同時に「自らの強みは何か」を自問することである。強みを持ち、磨き続け、それを発揮した結果がバリューワークであるからだ。バリューワークは結果であり、それを生み出すために、どのような強みを持つべきかを考える必要がある。(もちろん、強みを発揮するための心理的要素や環境的要素を整えることに気を配るのも大切だ。)

●強みとは

自分の強みを明らかにするには、周囲の人々が持っている強みは何かを知らねばならない。自分の強みと周囲の強みが一致していれば、それは強みとは言えないからだ。ドラッカーは「自らの強みに集中せよ」と言ったが、これは、外部からの多様な要望や事業環境の変化に対して、柔軟かつスピーディーに対応するには内部にも多様性が必要であり、その意味でバラバラな強みを持っている組織が強く、同時にそれぞれが各々の強みに集中すべきだという意味である。皆の強みが同じである組織は、居心地はよいかもしれないが脆弱であるし、差別化されない強みは周囲から強みと認識されず、個は埋没していく。「自らの強みは何か」とは、「自分を、どのような点で周囲と差別化するか」と言い換えることができる。

とは言え、強みの発見は簡単ではない。ドラッカーが言うフィードバック分析(目標を定めて努力してきた年月を振り返り、その達成度合いを分析する)は、一つの方法だ。他には、自分が自然に出来てしまうことに注目してみるのもよい。苦もなくやっているので、自分では意識していなかったが、他者に訊いてみたら強みだと認識されていたというケースはよくある。他者の特徴はよく分かるのに、自分の特徴は自分ではよく分からないのと同じだ。自分が簡単にできるので、誰にでもできると思ってしまっているのは勿体ない。この点でも、周囲の人々が持っている強みは何かを知るのが有益である。

また、強みに優劣があると考えない方がよい。あの人の強みに比べれば、自分の強みは大したことがないといった具合だ。それは同質な組織の考え方であり、多様性を尊ぶ組織の考え方ではない。他者にないから「強み」なのであり、それぞれバラバラであるものはそれぞれに価値があり、比較するのは無理がある。強みは、「違い」や「個性」の一種として理解すべきだ。そもそも強みと弱みは、裏表の関係でもある。積極性という強みは、計画性や熟慮が足りないという弱みになりがちだ。フットワークやスピード感という強みは、慎重さや丁寧さに欠けるという弱みにもなる。言論明晰な人は、場合によってはキツく配慮に欠ける物言いに聞こえるかもしれない。強みは、優劣ではなく各々の違いとして意識され、共有され、活用されている状態であることが大切なのである。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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