組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
それでは公平性が保てない、という反論もあるだろう。しかし、公平性を保つための関与や調整は、重ねるほどに不透明感が増し、さらに、調整による評価結果の変更は、現場の納得性を低下させる。「公平性」と「透明性・納得性」はトレードオフの関係になりやすいのである。では、「公平性」と「透明性・納得性」のどちらを重視するのか。“本部(の気持ち良さ)本位”か、 “働く人(のやる気)本位”か。それでも「公平性」を保つべきという人はいないだろう。
二つ目、三つ目の目的である「成長促進」や「意欲の向上」は、本来的にはマネジャーとメンバーの間のコミュニケーションの質・量によるところが大きい。それをないがしろにしたままでは、いくら立派な評価制度や「評価基準書」「等級定義」などを作っても、成長促進や意欲の向上は望めない。上司と部下が言動・仕事振り・成果を折に触れて振り返り、強みや課題・改善点を共有したり、上司から部下にその役割や使命を全うするための動機付けが適切に行われたりしているかどうかが、成長度合いや意欲を左右する。逆に、「評価基準書」や「等級定義」を提示し、それに基づいて評価するようにしたら、皆がそれを目指して意欲的に頑張るようになり、成長していくといった話は聞いたことがない。
研修制度も同様である。各等級に求められる標準的なスキル・マインドなどを作文し、そのような姿になることを求める研修は、金太郎飴化そのものだ。スキルマップもその典型である。各職種の各階層に求められるレベルを定め、それに当てはめて各々を評価し、各人が現在、何ができるかを可視化する。あるいは、さらに上のレベルの業務ができるように促す。上司や人事部にとって分りやすいだけで、そこに書かれていないそれぞれの強みや個性を無視していることになっているし、ダイバーシティに逆行するこのような取り組みが成長を促進するとも組織を強くするとも到底思えない。
知的労働者には、標準化も管理も適さない。基準づくりとその適用は、知的労働者の個性を失わせ、プライドを傷つける。これからの人材マネジメントは、標準化や管理をやめ、各々の強みや個性に焦点を当て、その多様性と伸長に注力しなければならない。そうすることで、バリューワークが生まれ、大きな成果につながっていくのである。
【つづく】
新しい「日本的人事論」
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。