組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
神戸大学の金井壽宏教授は「キャリア・ドリフト」を唱えた。あらかじめ厳密な目標や計画を立ててそれに固執するよりも、そんなにうまく思った通りにはならないのだから、前向きな態度で漂流(drift)すればよく、その代わり、節目では漂流した軌跡をしっかりと振り返り、また今後の大まかな方向性を定めればよいという考え方である。
自分で自身の仕事や役割を決めることができない以上、計画がその通りに実現する可能性は極めて低い。社長だって、顧客や市場や株主や銀行に右往左往させられ、思った通りに事は進められない。計画が狂うのはほぼ必然である。それなのに、厳密な目標や計画を立てて、思い通りにならない環境を嘆き、思い通りになっていない自分の現状を憂いてストレスを感じるのはほとんど意味がない。
であれば、思った通りになっていない現状を当然と捉え、目の前の仕事や役割をポジティブに捉え、周囲に対して調和的な態度をとり、そのときどきの仕事や自分の状況に柔軟に対応していったほうが生産的だし、そういう態度のほうが、後になって良かったと思える経験を積めるはずだというのがキャリア・ドリフトの思想だ。「明確な目標と計画を立てて努力すれば、それは実現する」という幻想を、多くの人の実際の職業人生に鑑みた上で修正しようとした、現実的で優れた理論である。
しかしながら、ただ漂流していればよい、何かのときに振り返ればそれでよいという話ではない。また、厳密な目標や計画でなく、大まかな方向性でよいと言っても、それはどのような中身であるべきなのか考えてみる必要がある。
●どのように漂流すべきか
上手な漂流には、まず、不本意な状況や良くない結果を悲観的にならず前向きに認識する力が求められる。起こっていることや自分が置かれている環境を悲観し、不安視すればするほど、これから流れていく先が良くないものに感じられる。堂々と流されるためには、物事の良い面を見て、現状を肯定的に考えなければならない。
沢山の課題や未知の問題に対して混乱せず、状況を正確に把握する力も必要である。課題を整理し、優先順位をつけ、論理的に把握をしなければならない。でなければ、起こっていることの意味づけができず、経験を効果的に自分の中に取り込むことは不可能だ。
同じような意味で、失敗やミスから孤独や自責を感じるのではなく、冷静に分析し受け止める力も大切である。失敗すれば落ち込むこともあるだろうし、ネガティブな気持ちになりがちだ。しかしそこで、冷静になり客観的な視点に立たねば、それから先に進む勇気が湧いてこない。
新しい「日本的人事論」
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。