組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
以上のような、思考・マインドでいるためには他者の存在は見逃せない。物事を進める際には、周囲の人たちと常に自然体でコミュニケーションをとり、協調的な関係を築いていること。組織のメンバーに常に関心を持ち、洞察し、理解しようとすることで互いに認め合う関係を築くこと。迷いごとや困りごとがある場合、互いにそれを打ち明けたり互いの言葉に素直に耳を傾けたりすること。このような他者との良好な関係が、精神的な安定を生み、前向きな思考を促し、漂流に対する自信につながっていくはずであるからだ。
●どのように振り返るべきか
漂流した軌跡を振り返るには、以下の5つの視点が重要になる。
一つ目は、仕事の仲間と良好な関係を築けたかどうか。良質なキャリアは、自分の努力だけで出来ていくものではない。仕事の関係者(上司・同僚・お客様・取引先等)との良好で刺激的なやりとりが自分の血肉となっていく。キャリアは他者と一緒に創るものであり、他者との関係の質の高さがキャリアを優れたものになる。
二つ目は、周囲の期待に応えたかどうかである。周囲の期待がどのようなものであれ、それらに抗わず、受け入れ、適応し、期待に応えることを最優先する。自分がやりたいことより、自分への期待や要望に関心を払う。「置かれた場所で咲く」ことによってキャリアが好転し、飛躍していく。キャリアは、期待に応えた質量に比例するのである。
三つ目は、豊かなインプットを行ったかどうかだ。インプットには、先端の業務関連知識を習得すること、経験を体系化する(整理して応用、伝承できる状態にする)こと、教養(業務に無関係な知を得る。仕事は人としての総合力である)の三つがある。豊かなインプットがあるからこそ、経験を自らの引き出しに変えていけるし、経験が原理原則へと昇華していく。
四つ目は、挑戦したかどうかだ。挑戦はその結果によらず、ドラマやエピソードを残す。成功すれば自信になり、失敗しても大きな引き出しを獲得できる。前例を踏襲した無難な業務遂行は何も残さない。ドラマやエピソードに乏しい人生は寂しい。キャリアとは挑戦の軌跡でもある。
五つ目は、パラダイムに変化や進化があったかどうか。どのような視点で物事を捉え、どのような姿勢で人生に向き合い、どのような軸で物事を判断するか。これがパラダイムであり、あらゆる言動はこのような「観」「パラダイム」の結果だ。良質なパラダイムが良質な言動となり、その蓄積・結晶がキャリアである。キャリアとは「パラダイムの結晶」であり、良質なキャリアを築くにはパラダイムを磨き続けなければならない。
新しい「日本的人事論」
2018.02.05
2018.02.15
2018.03.10
2018.03.23
2018.04.07
2018.04.23
2018.05.14
2018.05.29
2018.06.16
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。