組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
三つ目に、心身の健康も欠かせない。単調で何も考えなくてもできるような仕事でない限り、元気で活き活きとした状態のほうが、価値あるものが生まれてきやすい。また同時に、周囲をも元気にしなければならない。自分一人でやれることなど、ほとんどないのだから、自分だけ元気であっても良い仕事はできないからだ。ジャック・ウェルチはリーダーの条件として、「Energy」と「Energize」を挙げた。GEのリーダーに対して、自らが元気で活力を持つと同時に、他者に活力を与える存在であることを求めた。同じように、この二つはバリューワークを進める点で重要である。
四点目は、創発的な交流機会を持つことだ。同じ職場の中に閉じこもり、固定的な上司・部下関係や職場の人間関係を続けていては、新たな切り口やアイデアが出てきにくいから、仕事の価値向上につながる改善や工夫は生まれにくい。一日の活動時間の多くを会社の中で会社の仕事に費やし、自分とは異なる仕事、違う世界の人たちとの交流を持たない会社人間が集まっていくら会議をしたって、大した発想は生まれてこない。シュンペーターは「イノベーションとは、新結合を遂行することである」と言ったが、同じような人は同じようなピースしか持っていないから、新しいピースを結合させるのは難しい。バリューワーカーは、会社に閉じこもらず、会社に閉じ込められもせず、自分とは異なる人達と交流し、刺激を受け、そこから得た気付きを自らの仕事に反映させようとしている。
五点目に、バリューワーカーは自律的に上手な目標を設定する。与えられた目標にやみくもに取り組むのではなく、その目標の先にあるものを見据えて意味付けを行ったり、その目標を達成するための行動や手段を具体化していったりし、主体的に取り組むべきものとして目標を咀嚼する。組織人として与えられた目標だけでなく、自分の人生の主役として自身の成長目標、人生を楽しみ充実させるための目標をイメージする。仕事とは関係はないが、自分に期待してくれている人たちの気持ちに応えるための目標も設定する。これらの目標はすべて自分が自律的に設定したものであるため、心から達成したいと感じられる目標になっている。
六つ目は、バリューワーカーは専門バカではない。専門分野や得意分野は持っているが、同時に自分が苦手とすること、よく知らない分野についても自覚しており、それらに興味・関心を持っている。自分の専門とする分野の知識・技術は重要だが、よく知らない分野のそれらは大したことがないと考える人には、価値ある仕事はできない。専門外の人との知恵を拝借したり、協力を得るなど、上手なコラボレーションがなしえないからだ。自分の不得意な分野を自覚し、それを得意にしている人と良好な関係を作っておけば、不得意な分野がなくなるということをバリューワーカーは知っている。さらに、仕事に関係のない教養にも関心を持つ。専門的な知識を活かし、専門家として差別化された存在感を大きくするのは、長い目で見れば仕事に無関係な教養であることを知っているからである。
新しい「日本的人事論」
2018.02.05
2018.02.15
2018.03.10
2018.03.23
2018.04.07
2018.04.23
2018.05.14
2018.05.29
2018.06.16
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。