/相手が去っても、愛は残る。平穏無事とは名ばかりの空虚な一生よりも、たとえいつか彼女が去ってしまうとしても、人生のすべてを賭けて、泣いたり、笑ったり、幸せな思い出がつまったリアルな人生を選ぶ。それがウィルの新たな決断。/
自由奔放なうえにハリウッドの軽薄な恋愛流儀に染まり切ったアナにとって、だれかと一生を添い遂げるなんて考えてもみたことがなかったのだろう。そして、そういうアナに対して、ウィルは、距離を感じざるをえなかった。
そして、次は、家の外をゴシップ記者たちに囲まれたところ。アナが、新聞は永遠に残るのよ! 今回のこと、私はずっと後悔するでしょうね! と当たり散らすと、ウィルは、そうか、わかった、でも、ぼくはきみと逆のことをするだろうな、きみが来てくれたことを、いつまでもうれしく思い返すんだ、と答える。これを聞いて、彼女は動揺して、サングラスをうまくかけられない。
ここから半年以上。この間に彼女は賞を取り、名作の主演を務めるほどの大女優に。そのロンドンのロケ地に、突然、ウィルが現われる。共演者に、気まずいわ、昔の男よ、と言ったのも、あながちウソではあるまい。ただ、この言葉をインカムで漏れ聞いたウィルが帰ってしまうと、思うところがあっただろう。
これまで不義理をしてもまた家に押しかけて無理な願いをするようなアナなのだから、ロンドンにくれば、むしろ彼女の方からウィルに電話でもしそうなもの。実際、彼女は、ウィルに渡したいプレゼントを米国から持ってきていた。にもかかわらず、そうしなかった、できなかったのは、ウィルのことを思って、自分の不義理を悔やみ続けるようになっていたから。
そもそも彼女がチンケな潜水艦アクションなどではなく、まともな映画のまともな女優をめざすようになったのは、ウィルとの出会いがあったからこそ。いま主演している作品は、まさにウィルが言ったヘンリー・ジェイムズのもの。けれども、虚構のハリウッドで主演女優を務めるということと、ウィルとリアルにつきあうことは両立しない。そこに葛藤がある。
(武装解除した、素顔のアナ。なんともやぼったい中学生のようなカーディガン。足なんか、ビーチサンダルですぜ。『ローマの休日』のヘップサンダルとは大違い。でも、話を切り出しにくいのか、爪先をピコっとあげるのがキュート。)
そもそも半年以上。ウィルはむしろ彼女の今の中に生きている。だが、ウィルからすれば、むしろアンの方が昔の女では。だから、翌日、書店を訪れて、最初に聞いたのが、どうしてた。そして、私のこと、また好きになってもらえないか、聞こうと思って来た、と言う。これに対し、ウィルは、NOとだけ言って、おしまいにしてもいいかな、と。彼女は、ええ、そうね、もちろん、じゃ行くわ、会えてよかった、と、あっさり去ろうとするので、ウィルは引き留めて説明する。
映画
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。