/アメリカの中でも、ハロウィンは、もともとかなり特殊な文化に発している。すなわち、キリスト教の彼岸観に、アイルランド的ドルイド教と黒人奴隷的ブードゥ教がくっついたもの。これは、内陸中西部でこそ生まれたものであり、まさにそこにウォルト・ディズニーと彼の仲間である「ドモレイ」たちは育った。/
ミッキーマウスも例外ではない。黒いネズミは、南部ミンストレルショーのように、白い手袋とどた靴をはかされて、アルルカンよろしく、いたずらのし放題だった。その後、妙な優等生になったが、それで出自が変わるわけではない。(それにしても、ネズミに飼われる白い犬のプルートとネズミの友人の黒い犬のグーフィの関係はどうなっているのだろう。グーフィがプルートを散歩に連れて行ったりもするのだろうか。)
とくに問題なのは、ハロウィンだ。たしかに万聖節というのは、カトリックの中にある。というか、聖人を持たない新教にはない。それで、本来、11月2日の死者の日が繰り上がった。さらに言えば、東方教会やポルトガルでは5月1日の前後になる。いずれにせよ、その元は、ラミュレスと呼ばれる古い古い、妖精の女王である地母神と死者たちの祭。
なんにしても、こんなものは、せいぜいお彼岸のような墓参りの日というだけで、ヨーロッパでは、ほとんど廃れていた。ところが、ディズニーがマンガでがんがんとハロウィンを広めた。ディズニーは、新教国アメリカに、なぜこんなイベントを広めたのだろう。
メイソンロッジ「ドモレイ」
『ダヴィンチ・コード』の主人公は、ミッキーマウス時計を使っていて、ディズニーは聖杯伝説に関係がある、作品にやたら薔薇が出てくる、と言う。しかし、どの程度わかって言っているのやら。
ウォルト・ディズニーの一家は、アイルランド系カトリックだった。しかし、彼は、終生、教会には通っていない。彼にとっては当然だったハロウィーンは、カトリックの万聖節というより、キリスト教より古いアイルランドの土俗的な妖精祭のものだ。ディズニーが自社の作品からいっさいの宗教色を排除させたこともよく知られており、たとえば、イタリアのピノキオですら、神に祈らず、星に祈ったりする。そんな彼が、雑多なスタッフによって作られる自分の作品に、聖杯伝説など描き込むわけがない。
ディズニーの信仰は、カトリックのものではなく、メイソンリーのものだ。それは、すべての信仰を尊重するとともに、共産主義のような無神論を徹底して排除する。彼の会社の内部における労働組合との熾烈な闘争も、彼のこのメイソンリー信仰に基づく。
彼の父は新聞配達業をしており、彼自身も、列車内販売のアルバイトをしていた。これらの関係で、彼は、カンサスシティのロッジ「ドモレイ」に入る。いちおう国際的メイソンリーのひとつ、ということになっているが、もともとはミズーリ州の青年会のようなもので、正会員でいられるのは21歳まで。とはいえ、その後は、たしかに全米に散っていって、郷土人会として機能している。
歴史
2020.06.24
2020.08.27
2020.09.25
2020.09.30
2020.10.30
2020.11.18
2021.01.12
2021.03.22
2021.05.25
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。