/アメリカの中でも、ハロウィンは、もともとかなり特殊な文化に発している。すなわち、キリスト教の彼岸観に、アイルランド的ドルイド教と黒人奴隷的ブードゥ教がくっついたもの。これは、内陸中西部でこそ生まれたものであり、まさにそこにウォルト・ディズニーと彼の仲間である「ドモレイ」たちは育った。/
この問題は、キリスト教の根本のところに触れる。だから、オカルトだ。イエス本人ないしその解釈者のパウロが、ユダヤ教とは異なる、もっと古い信仰を下敷きにしていた可能性に関わる。最近、それはエジプト教だ、などという本も出ているが、エジプトはもちろん、ギリシアや、オリエントをも含む、かなり広い領域に、ある神話が成立していたことが知られている。
蛇と両義性
「妖精の女王」ドゥースこと、売春宿のやり手婆カルディーヌ=パンドーラ(すべてを与えられし女)は、地母神であり、一方、アルルカン=ヘルメス=オルフェウス=デュオニソスは、植物神とされる。後者は捨てられて地に撒かれてこそ復活する。この死と再生の神話は、全世界的な広がりを持つ。
アルルカンは、脱皮して若返る蛇に象徴される。その末裔のアルレッキーノがつぎはぎの服を着、また、先に挙げたパパげーノが緑の羽に覆われているのも、蛇のウロコの痕跡を示している。そして、蛇としてのアルルカンは、ときに太いツタとなり、唐草模様や、さらには建物に絡まるグリーンマンとなる。
また、その死と再生の両義的な性格は、笑いや陶酔の倒錯と一体となり、両性具有として現れる。とくに、白でもあり黒でもある月女神ディアーナに化けることが多い。ヘルメスにおいては、この両義性は、二匹の蛇になる。また、東洋では、地蔵は、男性的な騎獅の文殊菩薩と女性的な乗象の普賢菩薩の関係に展開する。両者は、地母的な釈迦如来の脇侍だ。
問題は、地母神に抱かれた植物神で、この手の母子神像が世界のあちこちにあるということだ。つまり、聖母マリア像だの、慈母観音像だのより、はるかに古い。そして、慈母観音像を聖母マリア像だというのであれば、聖母マリア像は、地母神像だ、とも言うべきだ。そして、まさにその地母神信仰こそ、本来の「ミステリ」の語源にほかならない。
植物神としてのイエス
メイソンリーの中核にあるのは、ヒラム神話だ。しかし、それもまた、植物神の問題に行き着く。石工は、当時、一般に青銅のクサビを用いて、石材を加工した。ところが、ツロのヒラムは、古代エジプト以来の、大量の木材を用いて超巨大石材を加工する錬金術的な技法を知っていた。が、誰にも教えない。それで殺された。しかし、その神話自体が、その技術の秘密を明かすものとなっている。
そしてまた、キリスト教においても、イエスは、自覚的に植物神の死と再生の物語を演じた、ないし、パウロが、イエスはそれを演じた、と解釈した。聖書にも、イエス自身の言葉として、種を蒔く人のたとえだの、毒麦のたとえだのが出てくる。しかし、このことをその中核の人々はよく知っていながら、この先行信仰の問題は、その後のキリスト教において深く隠された。というのも、この問題は、地母神としての母マリアないしマグダラのマリアの、教団内での地位に関わるものであったためだ。
歴史
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2021.05.25
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。