/アメリカの中でも、ハロウィンは、もともとかなり特殊な文化に発している。すなわち、キリスト教の彼岸観に、アイルランド的ドルイド教と黒人奴隷的ブードゥ教がくっついたもの。これは、内陸中西部でこそ生まれたものであり、まさにそこにウォルト・ディズニーと彼の仲間である「ドモレイ」たちは育った。/
物理的に種を蒔いた、だからマリアの子はイエスの子孫だ、などというのは、論外な話だ。むしろイエスが植物神をみずから体現していたのであれば、むしろ陰に陽に、そこには両性具有的なニュアンスを伴っていたと考える方が妥当だ。
発酵のコントロール
石工のメイソンリーが麦のビール発酵をテーマとするジョン・バリーコーンの物語にヒラム神話を隠したように、イエスの話の中心に発酵がある。ワインとパン、は、私の血と肉、と言うが、そのワインやパンは、かなり特殊なものだ。
カシュルート(食事規定)によれば、ワインは、異教徒が触れたものであってはならない。ロスチャイルドが自分たちでワイン畑を買い取ったのも、こういう事情からだ。そもそも、ワインといえば、当時、赤に決まっており、それも発酵止めの方法を知らなかったから、底抜けの辛口で、オリーブオイルで割って飲むようなものだった。ところが、ユダヤのコーシャ・ワインは、本来、ドロ甘だ。熱処理して酵母を殺菌し、発酵を止めるのだ。そのくせ、ボトルを開けっ放しだから、酸化しまくっている。
パンも、過越祭のものは酵母を使ってはならない。たてまえでは、出エジプトのとき、発酵させている暇がなかったから、ということだが、過越祭の後、一週間の除酵祭(ペサハ)が続く。ここにおいては、パンだけでなく、家中の古い酵母を一掃しなければならない。これは、酢酸菌や乳酸菌などの雑菌の混入を防ぐ農耕文化を起源とするもので、出エジプトのイスラエル人とは関係ない。
いずれにせよ、家具大工の息子イエスが、やたらこの酵母の問題にこだわり、酵母そのものから除菌してしまえ、と訴える。彼に言わせれば、酵母は悪しき不純物であり、人を高慢にふくらます、と。もちろんその根の一端は、たしかにユダヤ教にあるのだが、イエスの奇蹟には、水をワインに換えた、とか、パンを数千人に分けた、とか、バッカス的な発酵技術のにおいがする。
ミッキーマウスとハロウィン
『魔笛』において、アルルカンは、緑のパパゲーノになるが、その黒い面は、モノスタトスに引き継がれる。また、ヨーロッパにおいて、煙突掃除人、葬儀屋、大工、などは、黒い服に決まっている。そして、この世とあの世の間の仕事として、差別と畏怖の微妙な関係に置かれていた。だいいち、サンタクロースだって、もともとは真っ黒だ。緑のグリンチやシュレック、白黒のビートルジュースやキャット・イン・ザ・ハット、ジャック・オランタンも、彼らの末裔に位置づけられる。
歴史
2020.06.24
2020.08.27
2020.09.25
2020.09.30
2020.10.30
2020.11.18
2021.01.12
2021.03.22
2021.05.25
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。