/フリーメイソン(自営石工)のブルーロッジは、中世、さらには古代にまで遡る。だが、近代になって、各地のロッジを統括し、政治利用しようとするゼネコン連中や投資家連中が、その上にレッドロッジ(グランドロッジ)を作り、その支配権の争奪を始める。/
「この中二階クラブ時代の二七年に、ラムゼーは『キュロスの旅』という本を出して、これがベストセラーになっているよ」「古代クセノフォンの『キュロスの教育』を模したものですか。それにしても、古代ペルシアの初代の王キュロス二世が主人公とは」「どのみち寓話だよ。ただ、クセノフォンのが普遍的な帝王学の教育論であるのに対して、ラムゼーのは、あくまで当時のヨーロッパ情勢の批評と政治経済の理想で、それをキュロス二世に仮託して語らせている。だから、クセノフォンよりフランシス・ベーコンの『新アトランティス』に近いかな」「話を聞いていると、ニュートンなんかより、メイソンらしい人物ですねぇ」
「実際、株を転がすだけで儲けようとする老ニュートンが二七年に死ぬと、ラムゼーは、二九年、王認協会に迎え入れられ、三〇年にはオックスフォード大学から名誉法学博士の学位を授与された」「『キュロスの旅』に対する評価ですかね。でも、絶対王政の重商主義の時代に、政治学や経済学を論じるなんて、どうだったんでしょう?」「案の定、パリ市の中二階クラブは、国王ルイ十五世ににらまれて、危険思想として三一年に閉鎖させられている」「ほらね」「なのに、ラムゼーは、あえてそんなパリ市に戻って、ブイヨン公家の家庭教師に」「この対岸のシメイ館、今の国立美術大学校の北側のところですね」「それよりブイヨン公家だよ」「あ、十字軍時代の初代イェルサレム王、ゴトフロワ・ブイヨンの末裔!」「一七一九年にジェームズ三世の妃になったのが、カトリック国ポーランド王の孫のマリア・クレメンティーナ・ソビエスカ。その妹マリア・カロリーナ・ソビエスカが二四年にブイヨン公シャルルゴトフロワと結婚し、ラムゼーがその公子ゴトフロワ五歳を教えることになった」
「ポーランド王の孫姉妹で、ジャコバイトと旧聖堂騎士団が結びつき、その仲介役がラムゼーだったんですね」「ただ、ポーランドも奇妙なことになっていたんだ。二人の祖父ヤン三世が一六九六年に亡くなった後、当然、オーストリア・ハプスブルク皇家の支持も得ているソビエスキ王家の二人の父ヤクプが王に選ばれるはずだったんだが、これにバイエルンやフランスが介入して妨害し、結局、ザクセン選帝公アウグストが王位に就いてしまった」「え? ザクセン選帝公国って、それこそルターのいた、宗教改革の原点でしょ」「いまさら、宗教なんて、どうでもよかったんだよ。ただ、三三年、そのアウグストも死去して、また各国が介入。泥沼のポーランド継承戦争に」「つまり、ソビエスカ姉妹も、国を追われたジェームズ三世と似た立場だったのですね」「ジェームズ三世もジェームズ三世で、国も持っていないのに、存在しない領土と爵位をうさんくさいジャコバン連中に授けて、勢力を固めていく。ラムゼーみたいなのも、三五年に準男爵(バロネット)に叙されて大喜び」「準男爵なんて、もともとジェームズ一世が軍資金集めに売り出した爵位で、貴族の数には入らないのに」
歴史
2017.08.07
2017.08.12
2017.10.04
2017.10.23
2018.01.28
2018.02.17
2018.07.10
2018.07.17
2018.07.24
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。