カナダの経営学者、ヘンリー・ミンツバーグは、著書のなかで、「戦略プランニング」と「戦略クラフティング」という戦略が生まれる対照的な2つを紹介している。 何かの戦略を計画立案(プランニング)しようとするとき、ほとんどの人は、市場についての論理的な分析や合理的な判断によって、システマチックにつくっていく。過去の市場データやアンケート調査などをもとに、組み立てていく方法だ。説明する際にも(自分も相手も)、合理的な論拠に伴う計画は賛同を得やすいはずだ。こうしたプロセスを、「戦略プランニング」と呼んでいる。 確かに、自部門の戦略でも、自分自身のビジネス戦略にしても、過去データや市場調査などの情報を基にして、「○○年度○○部門 開発戦略」などとして発表したり、自分の仕事の道筋にしたりする。データが言っているのだから、簡単と言えば簡単なやり方だ。
戦略クラフティングとは
もうひとつ、論理的な根拠ではなく、経験や愛着、バランス感覚などによって創作(クラフティング)されることを「戦略クラフティング」として紹介している。つくりながら実行され、次第に独創的な戦略へと発展するものだという。試行錯誤をしながら、経験のなかから様々なことを試しながらかたちにしていくやり方だと言えるだろう。
ミンツバーグは。「優れた戦略は、およそ思いも寄らない場所で生まれたり、考えもしなかった方法で形成されたりする。したがって戦略を策定する唯一最善の方法など存在しない。」と語る。
これもうなずける話だ。往々にして大ヒット商品は、個人の予想外のアイデアや経験のたまものだったりするし、自分自身の仕事にしても、思いもかけずうまくいった仕事は偶然の結果、起きたことのほうが多かったりする。
この2つは、いくつかの例に例えることができそうだ。机上の理論と現場の知恵、思考と実行、分析と経験、あるいは、経営陣と現場スタッフ、経営企画と営業など、立場やポジションによる対比もあるかもしれない。
ミンツバーグは、この2つのうち、どちらかが優れていて、どちからが間違っていると言っているのではなく、むしろ、世にある戦略の大半は、論理的な戦略プランニングだけでできたものでもなければ、偶然かたちづくられる戦略を待つこともできない。この二つが両極とするならば、この中間のどこかに存在するという。
戦略をクラフティングする
ミンツバーグが指摘するのは、本来の戦略策定とは机上でシステマチックに行うことがすべてではないということだ。MBAホルダーや経営企画のメンバーが、上がってきた数字だけを見て、「○○戦略」とやっていたのでは、失敗するのは目に見えているということなのだろう。自らの能力を正確に把握し、世にある、いわゆる戦略プランニング・ツールを捨て、戦略を工芸的に創作していく必要があるという。
世にある戦略指南書は、過去につくられたものを踏襲して後付けで論理付けされたものが大半だということも忘れてはならないことだ。あとからなら何とでも言える。
戦略とは、自分自身のケイパビリティを把握したうえで、陶芸家のように、クラフティングするべきものだという。
これは組織における戦略だけではなく、自分自身がこの先どのような戦略を持って進めばいいのかという個人の問題に対しても、非常に参考になる話だ。どのような組織に所属し、どのような契約スタイルで働いているとはいえ、ビジネスパーソンとして、今の時代は、本当に試練あふれる時代だ。市場データが導いたことや、上司から指示されることが正解だという保証はない、むしろうまくいかない可能性のほうが高い。
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