14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第3章|価値〉第3話
〈Q2〉のように、本などの知的な表現物も評価がむずかしいもののひとつだ。多くの部数が売れていると、わたしたちは自動的に「さぞ、すぐれた本なんだろう」と思う。逆に、数が売れていない本については「あまりよくないのだろう」と思う。テレビ番組にしてもそうだ。視聴率という数値の高い低いによって、その番組の内容を評価しがちになる。
しかし、部数や視聴率の低いもののなかには、ほんとうに深い内容のことを言っているので、多くの人にわかってもらえない場合が起こることを忘れてはいけない。だから、大事なことは、「数が大きいからすごい」とか「みんながいいというから、いい」という安易な評価に流れないことだ。
最後に〈Q3〉。高級料亭の5000円もする弁当は、たしかに素材も立派で、きれいにつくられている。技術の面でも、味の面でもすぐれているだろう。それに対し、お母さんのお弁当は、見ばえも地味だし、はっきり言って味も薄かったり濃かったりする。でも、よくみると、きのうのおかずの残りをうまく使っていたり、自分の好きなウィンナーを多めに入れておいてくれたりする。そしてなによりも朝早くから起きてつくってくれたものだ。そういう生活の知恵や愛情といったものさしを心のなかから引き出してきて、母の弁当をみつめることができたなら、その弁当はとても価値の輝くものになる。
ものごとの「評価=価値をはかること」はとてもむずかしい。一生をかけて学んでいくテーマといってもよい。豊かにものさしを持った人のみが、豊かにものごとをみつめることができる。そしてやがては、ものごとをあれこれ比較して、気をもむこともやめてしまうだろう。
【味わいたい言葉】
「私は五大陸の最高峰に登ったけれど、高い山に登ったからすごいとか、
厳しい岸壁を登攀したからえらい、という考え方にはなれない。
山登りを優劣でみてはいけないと思う。
要は、どんな小さなハイキング的な山であっても、
登る人自身が登り終えた後も深く心に残る登山がほんとうだと思う」。
―――植村直己(冒険家)『青春を山に賭けて』より
[文:村山 昇/イラスト:サカイシヤスシ]
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。