ほんとうの自分 ~ダヴィデは石のかたまりの中にいた

画像: Yasushi Sakaishi

2015.09.18

ライフ・ソーシャル

ほんとうの自分 ~ダヴィデは石のかたまりの中にいた

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第5章|人生〉第1話

第5章〈人生〉 #01


〈じっと考える材料〉

石の四つ子兄弟がいた。みな粗くて大きいだけの石だった。
長男A石は、「おれはなんでこんな堅くて融通(ゆうづう)がきかない体なんだ。もっと柔らかくて、軽やかで、輝くものとして生まれたかった」と、そんな願望を抱いて放浪の旅に出てしまった。

次男B石は、自分を飾りはじめた。色とりどりのペンキを塗り、紙や布で装飾をした。

三男C石は、「自分のとりえは堅固で安定しているところだ」と考えた。自分をガツンガツンと分割するや、建物の柱を支える基礎石になったり、石垣になったり、あるいは漬けもの石となって自分を役立てた。

四男D石は、自分を彫りはじめた。彫刻の技術をこつこつと磨き、ねばり強く自分に一刀一刀入れていった。やがて、粗くて大きいだけの石は、力強くも流麗(りゅうれい)で繊細な彫刻物となった。町の人びとはその彫刻を美術館に展示し、その美を永遠に称(たた)えた。


わたしたちはさまざまに生を受ける。ある人は、よい家に生まれたり、容姿に恵まれたり。逆に、ある人は「なんでこんな親のもとに」とか「どうして自分はこんなに才能がないんだ」というふうに生まれてくる。なぜ、そうした生まれながらの不平等が起こるのか?───それは科学がいくら進んでも、科学では解明できない問題であるし、科学が答えるべき分担の問題でもない。これは哲学や宗教が分担する問題といえる。

ある教えは「それは天が決めたこと」としたり、別の教えは「それは自分自身の過去の行いが決めたこと」と答えたりする。どの答えが絶対的に正しいということは証明できないが、あえてあるとすれば、それはあなたが一番納得できて、生きることに力がわく答えが、「あなたにとっての正しい答え」である。結局、どの答えを“信じるか”の次元に行き着く問題となる。

さて、ともかくも、あなたは生まれてきた。気がつけば、いまのような環境のもとに、いまのような身体、資質をもって生まれてきた。もう、これから逃げようはない。人がよりよく生きていくのは、先天的に受けたものをベースとしながら、後天的な努力でいかに自分を納得いくまで輝かせていくかという活動である。

わたしたちが先天的に受けるもののなかには、好ましいものも好ましくないものもある。たとえば、裕福な家庭に生まれお金の心配がない、とても利発的な頭を持ち勉強ができる、運動神経と体格に恵まれスポーツが万能である、などは好ましいものを先天的に受けたわけだ。だから、あとはこれをどう最大限生かしていくかになる。逆に、経済苦の家庭に生まれ進学のためのお金がない、病弱に生まれ体力がない、なにをしても不器用で人並みに作業ができない、などは好ましくないものを先天的に受けたわけである。ただ、最終的にそれが悪いものだったかどうかは、自分のその後の生き方によって決まるといえる。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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