14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第5章|人生〉第5話
〈じっと考えてみよう〉
ある小国の貧しい貴族の家に3人の娘(甲娘・乙娘・丙娘)がいた。3人とも10代のおしゃれ盛りで、着る服について好みが強かった。が、家は裕福ではなかったので娘たちに買ってやるドレスは少なかった。
甲娘はいつもこう漏らす―――「なぜ私には3着しかドレスがないの。しかも格好の悪いものばかり。いまどきこんな古い型なんて恥ずかしい。ああ、今晩の舞踏会になにを着ていけっていうの。このなかから選べと言われても選べないわ」。
それに対し、乙娘はというと、裁縫道具や布切れを部屋に広げ、手持ちのドレスに自分で手を加えている。―――「この部分はこう作り変えてしまえばいいかな。あ、そうだ、この素材を縫い付ければ今風になるわね。あと、ドレスを上下に分けてしまえば、いろいろと組み合わせもできるし、手元に3着しかなくても、5着、10着にも見た目を増やせるわ」。
一方、丙娘は、町でドレス作りを商売にしている職人やデザイナーを何人も広間に集めていた。丙娘は彼らを前に熱く語り始めた―――「ドレス作りを我が町の産業として有名にしていきましょう。来月行われる舞踏会には、国じゅうから貴族たちが集まります。王女も来るでしょう。そこであなたたちの腕前を見せつけるのです。最高のドレスを何着も作ってください。私がモデルになって宣伝しましょう」。
□3人の娘のうち、選択できるドレスの種類がもっとも限られているのはだれでしょう? 逆に、もっとも豊富なのはだれでしょう?
□3人の娘の間でそういった選択肢の多さに差が出たのはなぜでしょう? 各人の心の姿勢に着目して考えてみましょう。
わたしたちは日々、なにかを選択しながら生きています。A、B、C、D……、目の前にはいくつかの選択肢があって、どれかを選んでいく。たとえば、レストランに行けば、メニューにはたくさんの料理がのっていて、そこから食べたいものを選びます。家電店に行けば、テレビが何種類も並んでいて、価格や機能、予算に応じて選んで買います。高校や大学もそうです。自分の学力や家庭の経済力に合わせて、学校を選んでいきます。選べるものがたくさんあって迷うときもあれば、選べるものが少ない、あるいはまったくなくて困るときもあります。さて、そんな選択肢をめぐることについて、3人の娘の例で考えていきましょう。
自分が舞踏会用に着ていくドレスで、どれだけのものから選ぶことができるか。まず、甲娘が選べるのは3種類だけです。彼女は与えられたドレスからしか選ぼうとしていないからです。一方、乙娘はどうでしょう。彼女は与えられたドレスに自分でアレンジを加え、着こなせるパターンを5種類や10種類に増やしています。さらに丙娘となると、ドレス職人を集めて、さまざまに新しいドレスを作らせて、自分で着てしまおうというアイデアと行動を起こしています。おそらく丙娘が着られるドレスは種類も多いし、質も高いものになるでしょう。なにせ、腕前のいい職人が意気込んでドレスを作るのですから。
次のページそれは与えられたものから選んでいるだけだからです。次の...
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。