大戸屋ドキュメントに見る、改善努力がパワハラ呼ばわりされる理由

2019.12.16

組織・人材

大戸屋ドキュメントに見る、改善努力がパワハラ呼ばわりされる理由

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

テレビ東京・ガイアの夜明けで放映された定食屋チェーン「大戸屋」ですが、店長である社員への社長自らの檄がパワハラ呼ばわりされ、批判が起きています。私は全国でハラスメント研修を行っていますが、「ハラスメントのつもりはない」はずの行為がハラスメント呼ばわりされる事例として解説したいと思います。

1.大戸屋炎上、3つの原因
私は番組を見ていてとてもヒヤヒヤしました。なぜなら炎上につながりかねない場面が山盛りだったからです。特にネット中心に批判が巻き起こっている原因が3つ挙げられます。一つは大戸屋山本社長自らによる社員(店長)への檄が、冷たく厳しいものであったこと。二つ目は残業時間削減という、本来であればブラック化の逆を行く施策であるにも関わらず、そのソリューションがオペレーション効率化という、今以上に仕事の生産性を上げるというものだったこと。三つ目として、社長自らの経歴や経験など、努力や根性という明文化されない雰囲気が重要視されていたことが考えられます。

山本社長自身はアルバイトから社長にまで登り詰めた方で、自ら身を粉にして働いた企業戦士でした。自身はすべてを仕事に捧げた結果、店舗や本部での成功を実現し、企業への多大な貢献が認められたのは明らかです。しかしこの「自分は(ハラスメント的)環境をバネにした」「自分の成長に必要だった」話が、かなりの可能性を持ってハラスメント勃発のきっかけになるのです。

社長にまでなられる努力がどれほどのものか、想像できます。しかしそれは過酷な環境やハラスメントすらも克服できた成功者の成功談なのです。かつては「成功者を見習え」は正当な教育だったかも知れません。しかし今、ハラスメント対応が厳しく問われる中、すべての社員が成功できる能力やセンスを持っている訳ではありません。「ハラスメントのおかげ」のようなニュアンスは、「成功者」からはどうしても発信されがちなもの。今回の番組にはそうした社長礼賛が明らかに出ていたと感じます。

社長自身を賞賛することは何も問題ありません。今でも店舗でトイレ掃除を定期的に行う山本社長。本来は良いエピソードのはずです。しかし現在の環境はそれを努力の強要と映ってしまう危険があります。長時間労働や過酷な業務に就く現場スタッフに、さらなる加重を強いるメッセージとも取られる恐れがあるのです。こうした環境にどこまで配慮できたか、非常に疑問です。

2.「努力」という根性論の危険性
飲食店では食事の調理だけでなく、その原材料仕込み、提供・接客など幅広いオペレーションがあります。特に人気のある定食屋など昼時やピーク時のさばきだけでもたいへんな仕事です。社長は「まだ改善できる」と努力を諦めません。結局食品の仕込みをしながら別作業も進めるなど、分単位秒単位の作業分析の結果、労働時間1時間短縮を達成します。

ブラックと呼ばれる飲食店の厳しい環境の、むしろ改善を目指しているのが社長はじめ経営陣なのでした。しかしその意図は通じたでしょうか?残業時間が規定の45時間を超えていることを再三にわたり厳しく指摘される店長。外国人バイトを雇ったり、単発バイトで人員補充をしたり、いろいろ工夫をして何とか自分自身の残業時間も短縮させようと努力します。しかし外国人バイトからはより高い時給の店に移られてしまったり、単発バイトは結局戦力として宛にならなかったり、成果につながりません。

飲食業界はバイトですらもその過酷な労働や、労働に対しての給料(時給)が見合わないと、人手が全く足りない状況が続いています。店長は時給アップを提案しますが、当然店舗の収益ダウンと連動するため単なる時給アップが良策とは受け止められない雰囲気が漂います。結局店長たちの「努力と工夫とがんばり」によって、バイトの定着化は進み、残業時間削減は進んだのでした。めでたしめでたし・・・・・・・・とは、なりません。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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