企業風土から見るフジテレビの落日

2025.01.23

経営・マネジメント

企業風土から見るフジテレビの落日

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/社内は、縁故採用の「上級」社員と、有名大学から一般採用した「下僕」社員がいて、後者は、上司上級社員に取り入り、下請やAD、社内アナを含むB級タレントを「奴隷」としていじめて憂さ晴らししていた、というような話も。だから、現場のドロドロは、上級社員は、ほんとうに知らなかったのではないか。/


エンタメへの大転換

しかし、こんな地方中小店からの小銭商売で全国ネットを支えられるわけがない。80年、息子の鹿内春雄(1945ー88)が指揮して、消費性向の高いF1(独身女性)中心のエンタメ路線に大転換。そのために、父信隆から冷や飯を喰わされていた日枝久(1937-)や横澤彪(1937-2011)を労働組合から抜擢し、スポンサーと他局を見据えた編成局主導のマーケティングで番組を制作する体制を整えた。ここにおいて、『ひょうきん族』を典型として、数字を持っているタレントたちをいかにひとつの番組内に揃えるか、に重点が置かれるようになり、渡辺プロだけでなく、吉本、太田、ジャニーズなどとの新興進出事務所との連携を強めた。また、従来の生粋の映画俳優とは別に、アクターともタレントともつかないドラマ俳優たちをバラエティにも出演させて顔を売り、角川をまねて逆に映画にも進出していく。

これに拍車をかけたのが、『オールナイトフジ』(83-91)。当時、マーケティングでは「ゴキブリ効果」が言われていた。メス一匹の「フェロモン」でオス二〇匹が集まる、とのことで、ディスコでもなんでも、ノコノコと都会に出てきた若い女性たちを集めていた。そのテレビ版がこれで、都会の24時間化に応じ、ゴールデンのF1に対して、深夜のM1(独身男性)を釣った。同様に、夕方の『夕やけニャンニャン』(85-87)では、その女子高生版として、T(男女とも)をターゲット。何の芸があるわけでもない若い男女アイドルを生み出す。この戦略は、ニュース番組にまで入り込み、これまた、ろくに取材経験があるわけでもない、英語で会話できるというだけの大卒女性がキャスター顔して番組を張るようになる。

これまでフジテレビは、すべての女性を低賃金の契約社員に留めていたが、この動きの中で、女性アナウンサーを正社員として雇用して、いつでも安く使える事実上の直営タレントにする。また、多くの新興タレント事務所が周辺に群がった。かくして、フジテレビ全体が、番組タイアップのお手盛りタレント売り出し機関と化した。この戦略は他局も模倣したが、もともと取材網の弱いフジサンケイグループにあって、反共路線の挫折と春雄のエンタメ大転換で、編成>バラエティ>ドラマ>情報>報道、という歪んだ社内の力関係が確立してしまう。

鹿内春雄がNHKから引き抜いた女性アイドル「キャスター」頼近美津子(1955-2009)と結婚。88年の春雄の急逝で株の問題を生じて、そのドタバタに乗じ、日枝が鹿内一族を追放して、独裁化。安倍晋三(1954-2022)、森永製菓長女で電通社員だった昭恵(1962-)夫妻と関係を深め、遠藤周作の息子、遠藤龍之介(1956-)をはじめとして、著名人や芸能人、政治家、大手企業幹部の子女の縁故採用も大量に取り込んで、バブルを謳歌する。そのなれの果てが、いまのこれだ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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