/記者諸先輩から重ね重ね教わったこと。すぐメモを残せ、時刻と相手。そして、へもかは語るな、その前に、かならず裏を取れ、と。へもか、というのは、○○へ、とか、××も、とか、△△か、とかいう憶測記事。それはおうおうに、記者の身勝手な偏見私見だ。/
ほんのわずかながら報道に片足を突っ込んでいた折に、記者諸先輩から重ね重ね教わったこと。すぐメモを残せ、時刻と相手。そして、へもかは語るな、その前に、かならず裏を取れ、と。
へもか、というのは、○○へ、とか、××も、とか、△△か、とかいう憶測記事。それはおうおうに、記者の身勝手な偏見私見だ。なのに、号外まで出して「退陣へ」だと。
両院議員総会を開いても、参院選後に総裁を辞めさせるのは、制度的には、かんたんではない。そんなことくらい、政治部の新聞記者なら、当然わかっているだろう。もし、へもか、を書くなら、すでに相応数が集まっているかどうか、の裏取りをするのが当然で、党内有力者のだれかが確実だと言っていた、くらいの根拠しか無かったならば、まともな編集部なら、いくら記者が記事を起こしても、そこで掲載は止めるはずだ。それが、号外だと。
記者の質が落ちた。もちろん昔からトラップにはまったり、政治家に籠絡されたりする記者はいた。が、それでも、編集部には、それを最後に踏み留めて、一線を越すことを許さない良識者もいた。それが、記者の人数、取材の予算を絞って、本社に中高年が大量に座っていながら、このザマだ。ネットのデマにファクトチェックを、など言うが、まず社内でそれをやったらどうなのだろう。
そもそも、号外で何をしたかったのか、さえ、わからない。ネットなら、デマでもなんでも、PV(ペイパーヴュー)を稼げば、カネになる。だから、ろくでもない連中のろくでもないデマの動機も理解できる。だが、新聞が「退陣へ」などという飛ばしを散らして、いったい何をしたかったのか。スクープの名誉心、たって、世間の動向では、まあ、自分で辞めるだろうな、という予測の方が主流だったのだから、それに同調した記事では、シロウトでも思いつく話で、およそスクープにならない。むしろ、絶対に辞めない! という確実な情報を掴んでいたら、それこそホンモノのスクープだった。
それとも、隣国のように、本気で新聞社連中が裏金壷残党とつるんで保守クーデタを企てたのか。しかし、社命を賭けてまで、首相を引きずり下ろし、自民党の首をすげ替えさせて、いったいどんな意味があったのか。衆参ともに過半数を割り込んでいるのだから、そこまで無理をして自民党の顔を変えたところで、かえって国民の反発を買い、国会で首相に指名されないどころか、それこそ隣国のように、もっと大きなしっぺ返しが起きる。政治部で、編集部で、そのリスクをだれも考えなかったのだろうか。現にアホな恥さらしをやったせいで、官邸はいよいよ口を閉ざして、並みの情報すら取材できなくなった。おまけに、いかにも時代錯誤のオールドメディアとして、世間の信用も失った。
解説
2024.08.01
2024.08.18
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2025.07.31
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。
