クリスマスのお話:橋の上で

2021.12.12

ライフ・ソーシャル

クリスマスのお話:橋の上で

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/だけど、物語は、後半がおもしろいんだ。最後の最後、終わり一ページでどんでん返しかもしれない。だから、最後のページまで、途中で閉じちゃダメだ。きみはひとりじゃない。きみは祝福されている。きみを待っているひとたちがいるんだ。/

はぁ、はぁ、はぁ。おーぃ、そこの少年! 待て、早まるな!

まあ、そこから降りろ、な。

はぁ、はぁ、うー、うぅ、ちょ、ちょっと待て、息が切れた。

文字どおり飛んできたんだ、きみの家にも行ったんだぞ。

なのに、ベッドにいないから、ずっと探し回っていたんだ。

な、寒くないか、このコート、着るか?

え、だいじょうぶ? 年寄りからコートを剥ぎ取るほど、ワルじゃないってか?

どのみち、もういらない? いやいや、まぁ、ちょっと待てよ。

だれって? 見ればわかるだろ。今晩、こんなかっこうしているんだから。

もうプレゼントもいらない? いや、ごめんな、もともとそんなもの無いよ。

袋は、って、いまどきもう、そんなもの持ってないよ。

あれは、前は良い子リストが大量に入っていたんだ。

いまは、これ。すごい時代だな、こんな板っぺらで、ぜんぶ出てくる。

もっとも、字が小さいから、二度見が三度見になった。自分が耄碌したせいもあるがね。

ほら、これ。これ、きみだろ。今年もちゃんとリストに載っている。

消してくれ? そんなこと、できないよ。このリストは、わたしが作ったんじゃない。

じゃあ、自分が消える、って、いや、ダメだって。

だいたい、どうしたんだ?

え、うーん、そうか。学校じゃよくあることだな。

そうか…… それはつらいな。先生には話したのか?

え? 先生も、校長も、揉み消す? ずいぶんだな。

友だちは? 見て見ぬ振り? まあ、彼らも自分が標的にされたくないからだろう。

だから、ここで死んだら、テレビや新聞が採り上げてくれるって?

おいおい、やつら三日もすれば、飽きて忘れるぞ。

だいいち、校長からしてそんなじゃ、いなくなったきみの方が悪者にされるだけだ。

耐えられない、やつらが許せない。うん、わかるよ。そりゃそうだ。

うん、だったらなんとかしてくれって、それはそうなんだが、こんな老人だからなぁ。

だったら、ほっといてくれ、というのもわかる。

でも、わたしも仕事なんだ。ちょっと待って聞いてくれ。

仕事って、えーと、まあ、祝福だよ。

こんな状況のどこがめでたいって? いやいや、そうじゃない。

祝福っていうのは、わたしがするんじゃない、わたしは伝えに来たんだ。

いわば、予告みたいなもんだよ。

きみだって、ほら、おもしろい本を読んだことがあるだろ?

だけど、ま、たいてい話っていうのは、途中でだれる。

読んでいて、ややこしくて、めんどうになる。

いや、それどころか、主人公がひどい目にあって、読んでいてイヤになる。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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