/だけど、物語は、後半がおもしろいんだ。最後の最後、終わり一ページでどんでん返しかもしれない。だから、最後のページまで、途中で閉じちゃダメだ。きみはひとりじゃない。きみは祝福されている。きみを待っているひとたちがいるんだ。/
はぁ、はぁ、はぁ。おーぃ、そこの少年! 待て、早まるな!
まあ、そこから降りろ、な。
はぁ、はぁ、うー、うぅ、ちょ、ちょっと待て、息が切れた。
文字どおり飛んできたんだ、きみの家にも行ったんだぞ。
なのに、ベッドにいないから、ずっと探し回っていたんだ。
な、寒くないか、このコート、着るか?
え、だいじょうぶ? 年寄りからコートを剥ぎ取るほど、ワルじゃないってか?
どのみち、もういらない? いやいや、まぁ、ちょっと待てよ。
だれって? 見ればわかるだろ。今晩、こんなかっこうしているんだから。
もうプレゼントもいらない? いや、ごめんな、もともとそんなもの無いよ。
袋は、って、いまどきもう、そんなもの持ってないよ。
あれは、前は良い子リストが大量に入っていたんだ。
いまは、これ。すごい時代だな、こんな板っぺらで、ぜんぶ出てくる。
もっとも、字が小さいから、二度見が三度見になった。自分が耄碌したせいもあるがね。
ほら、これ。これ、きみだろ。今年もちゃんとリストに載っている。
消してくれ? そんなこと、できないよ。このリストは、わたしが作ったんじゃない。
じゃあ、自分が消える、って、いや、ダメだって。
だいたい、どうしたんだ?
え、うーん、そうか。学校じゃよくあることだな。
そうか…… それはつらいな。先生には話したのか?
え? 先生も、校長も、揉み消す? ずいぶんだな。
友だちは? 見て見ぬ振り? まあ、彼らも自分が標的にされたくないからだろう。
だから、ここで死んだら、テレビや新聞が採り上げてくれるって?
おいおい、やつら三日もすれば、飽きて忘れるぞ。
だいいち、校長からしてそんなじゃ、いなくなったきみの方が悪者にされるだけだ。
耐えられない、やつらが許せない。うん、わかるよ。そりゃそうだ。
うん、だったらなんとかしてくれって、それはそうなんだが、こんな老人だからなぁ。
だったら、ほっといてくれ、というのもわかる。
でも、わたしも仕事なんだ。ちょっと待って聞いてくれ。
仕事って、えーと、まあ、祝福だよ。
こんな状況のどこがめでたいって? いやいや、そうじゃない。
祝福っていうのは、わたしがするんじゃない、わたしは伝えに来たんだ。
いわば、予告みたいなもんだよ。
きみだって、ほら、おもしろい本を読んだことがあるだろ?
だけど、ま、たいてい話っていうのは、途中でだれる。
読んでいて、ややこしくて、めんどうになる。
いや、それどころか、主人公がひどい目にあって、読んでいてイヤになる。
物語
2018.12.21
2019.12.17
2020.08.01
2020.12.23
2021.04.17
2021.12.12
2022.12.14
2022.12.28
2023.12.19
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。