サンタの引っ越し

2022.12.14

ライフ・ソーシャル

サンタの引っ越し

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/地球環境も大切ですけど、まず自分の体を大切にしましょうよ。そうして、いつまでも元気で長生きしてくださいね。それがみんなの願いなんです。/

「親分、どうしたんです? 難しい顔をして」

「うーん」

「だいいち、この部屋、寒くありませんか。あ、暖炉が消えてる!」

「いや、いいんだ。このコートを着ているから」

「……だけど、最近、そのコートも、もう前が閉まらないんでしょ。測り直して新調しましょうよ」

「あ、うん、そうだな……」

「なんにしても、暖炉をつけておかないと、窓のところとか、凍っちゃってます」

「やっぱり、ここはなぁ……」

「何、見てるんですか? え、住宅情報サイト?」

「うん、そうなんだよ。引っ越そうかと思ってね」

「え、なんで? サンタったら、北極に決まってるじゃないですか」

「いや、だけどね、ほら、時代も時代だろ?」

「時代?」

「省エネだよ」

「まあ、わかりますけれど、うちら、なんか問題があります? 親分なんか、それこそ先進のバイオじゃないですか? コケ喰って空を飛ぶトナカイたちなんか、ガソリンも使わないし、排ガスも出さないんだから」

「それは、それとして、ここ、けっこう広いだろ」

「だって、うちらみたいのもおおぜいいて、良い子カスタマーセンターから、オモチャ工場、配送分類倉庫、それにソリ整備場やトナカイ牧場まで、それでどうにか成り立っているんです。え、ひょっとして、生産性が低い、とか言って、IT企業みたいに大規模リストラ?」

「いや、そうじゃない、そうじゃない。問題は暖房さ」

「うーん、たしかに冬場、暖房しないと、この部屋みたいに凍っちゃいますからね。だけど、どの部屋も、石油やガスは、いっさい使ってないですよ。ぜんぶ、昔ながらのタキギのストーブで、発電もタキギの火力。裏山に木なんかいっぱいありますからね」

「それだよ、問題は。自分たちのところは木がいっぱいあるからと言って、ばんばん暖房だの発電だので燃しておきながら、他のところの森林伐採を非難するなんて、どの口で言えるんだか」

「……そう言われれば、そうですねぇ」

「このあたりの木だって、自分たちで植えたものじゃないだろ。みんな、神さまがくださったんだ。他のところの連中が、石炭や石油を使うのと同じさ」

「まあ、石炭や石油でも、タキギでも、二酸化炭素が出るのは同じですね」

「それだけじゃない。生きている木を切ってしまうんだから、いよいよ二酸化炭素の還元吸収が減ってしまう。ひょっとすると地中の石炭や石油を使うより悪質だ」

「なんか、とっても悪いことをしている気がしてきました」

「だろ? でさ、引っ越そうかと思って。どうせ空から全世界に配送するんだから、なにも、こんな寒くて暮らしにくいところにいなくても、いいんじゃないか?」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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